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水生動物 第2023 巻
令和 5年6月
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
福岡県柳川市の掘割におけるニホンウナギの生息状況
Occurrence and present status of Japanese eel in a canal “Horiwari” at Yanagawa
City, Fukuoka Prefecture, Japan
田嶋宏隆 1,2*・久米 学3・小川真由 1,2・渡邊 俊4・内山里美 5,6・内山耕蔵 5,6・大坪鉄治 5,6・
古賀春美 5,6・亀井裕介 6・三田村啓理 1,2,3
Hirotaka Tajima1,2*, Manabu Kume3, Mayu Ogawa1,2, Shun Watanabe4, Satomi Uchiyama5,6, Kozo
Uchiyama5,6, Tetsuji Ootsubo5,6, Harumi Koga5,6, Yusuke Kamei6, Hiromichi Mitamura1,2,3
1京都大学大学院農学研究科, 京都市左京区北白川追分町
2京都大学大学院教育支援機構横断教育プログラム推進部プラットフォーム学卓越大
学院プログラム, 京都市左京区吉田本町
3京都大学フィールド科学教育研究センター, 京都市左京区北白川追分町
4近畿大学農学部, 奈良市中町 3327-204
5NPO 法人 SPERA 森里海・時代を拓く, 福岡県柳川市椿原町 45
6やながわ有明海水族館, 福岡県柳川市稲荷町 29
1Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kitashirakawa-oiwake, Sakyo, Kyoto 606-
8502, Japan. 2Distinguished Doctoral Program of Platforms (WISE), Center for Interdisciplinary
Graduate Education, Division of Graduate Studies, Kyoto University, Yoshida-honmachi, Sakyo,
Kyoto 606-8501, Japan. 3Field Science Education and Research Center, Kyoto University,
Kitashirakawa-oiwake, Sakyo, Kyoto 606-8502, Japan. 4Faculty of Agriculture, Kindai
University, 3327-204 Nakamachi, Nara 631-8505, Japan. 5SPERA, 45 Tsubakiharamachi,
Yanagawa, Hukuoka 832-0031, Japan. 6Yanagawa Ariake Sea Aquarium, Inarimachi, Yanagawa,
Hukuoka 832-0066, Japan
*Corresponding author, e-mail: tajima.hirotaka.48n@st.kyoto-u.ac.jp
Abstract
The Japanese eel (Anguilla japonica) population has experienced significant declines across
East Asia. The canal network called Horiwari in Yanagawa City, Fukuoka Prefecture, Japan is
no exception. The deployment of sluice gates between Horiwari and adjacent rivers may have
prevented eels from entering the canal, which has likely reduced the eel population in the area.
A local high school and nonprofit organization have been releasing tagged juvenile eels into the
canal to aid in the recovery of the species. However, there is currently limited knowledge
regarding the effectiveness of these efforts in repopulating the canal with both wild and released
eels. We used an electro-fishing unit to collect eels during five surveys conducted in October
2021, February, March, and November 2022, and February 2023. A total of 47 eels were collected,
ranging from 122 to 623 mm in total length. Two silver phase eels were collected in November
2022, while the remaining 45 yellow phase eels were at all surveys. Our observations indicated
that eels of varying lengths utilized mud and sand habitats, with larger eels (> 400 mm in total
length) primarily found in boulder or stonewall habitats rather than pebble or cobble areas. These
findings suggest that Horiwari offers a suitable habitat for Japanese eels to inhabit and to grow
and provide important insights into the effectiveness of current recovery efforts for this
endangered species in the region.
Key words: Anguilla japonica; bottom environment; habitat; growth stage
緒言
ニホンウナギ Anguilla japonica は、北太平
洋西部の西マリアナ海嶺南部海域で産卵を行
い、東アジアの河川や湖沼の淡水域および汽
水域もしくは沿岸域で成長する降河回遊魚で
ある(Tsukamoto et al. 2011)。産卵場にて孵化
Fig. 1. Maps of the study area. A: Kyushu, Japan.
B: Horiwari (enclosed by square) and its
surrounding areas. C: Enlarged map of Horiwari
showing six sampling locations ( ➀ to ➅). The
light blue and red areas indicate water area and
sampling locations, respectively. The diamonds
indicate the sluice gates. D: Enlarged maps of six
sampling locations. The diamond indicates the
sluice gate in sampling location ①.
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した葉状の幼生のレプトセファルスは、海流
に乗って東アジアの沿岸域へ移動する
(Kimura et al. 1994)。レプトセファルスは黒
潮内で変態を開始し、透明で細長いシラスウ
ナギとなって接岸した後(Shinoda et al. 2011)、
黒色色素が沈着してクロコと呼ばれる段階を
経て、黄ウナギと呼ばれる成育期となり、沿
岸から河川で過ごす(Kaifu et al. 2010)。黄ウ
ナギは数年から十数年を経て成長し(Kotake
et al. 2007)、銀ウナギへと変態した後、産卵の
ために海へと移動する(Sudo et al. 2017)。
本種はかつて、日本全国の内水面で豊富に
漁獲され、食資源動物として日本社会に深く
根付いている。しかし、1970 年以降は漁獲量
が激減し、河川において確認されることも少
なくなった(Kaifu et al. 2018)。そのため、2013
年には環境省レッドリストにおいて絶滅危惧
IB 類(環境省 2013)に、また、2014 年には
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに
おいて Endangered(Jacoby and Gollock 2014)
にそれぞれ指定された。ニホンウナギが減少
している要因については、海洋環境の変化や
成魚および稚魚であるシラスウナギの過度な
漁獲、成育場である内水面や沿岸域の環境変
化などが指摘されている(Kimura et al. 2001;
Chen et al. 2014; Itakura et al. 2015; 海部 2016;
Yokouchi et al. 2022)。
筑後平野に位置する福岡県柳川市は、市街
地に掘割が張り巡らされる水郷の街である
(Fig. 1)。この掘割は総延長 800 km を越える
人工的な水環境であり、農業用水として利用
されるほか、木造の小舟に観光客を乗せて掘
割内を周遊する「川下り」が行われている(福
岡県立伝習館高校生物部 2018; 堀 2019)。か
つてはこの掘割の中でもニホンウナギが多く
生息し、鰻のせいろ蒸しに代表されるように
地元の人々の間で食文化として根付いていた
(福岡県立伝習館高校生物部 2018)。しかし、
昭和 30 年頃から上下水道が整備されたこと
で柳川に住む人々と掘割の関係が希薄になり、
Fig. 2. The photos of sampling locations
in Horiwari, showing the sluice gate in
sampling location ① under normal
condition (A) and channel drying that was
conducted every February (B), and a
canal in sampling location ⑤ (C).
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
ゴミが投棄されることで水質汚染が進んだ。
また、同時期に掘割のコンクリート護岸化が
進むとともに、掘割内における本種の個体数
が次第に減少した(伝習館高校生物部 2021)。
昭和 50 年代には掘割再生運動が行われ掘割
内の水質は改善し(長尾 2008)、現在でも在
来の沈水性植物が生息する自然環境に近い底
質やニホンウナギの隠れ家となる石積み護岸
が残っているため、掘割内はニホンウナギの
生息に適した環境であると考えられている
(伝習館高校生物部 2018, 2021)。しかし、掘
割内で見られるニホンウナギの数は増加せず、
現在でもほとんど生息していないと考えられ
ている(福岡県立伝習館高校生物部 2018)。
その主な原因は、1980 年代に掘割とその接続
河川である沖端川を隔てる水門(Fig. 1C, Fig.
2A, B)を改修したことが関わっていると考え
られている(福岡県立伝習館高校生物部
2018)。改修以前の水門は、木製の板が潮汐に
合わせて自動で開閉することで排水を行うし
くみになっていたため、ニホンウナギはこの
板の隙間から掘割内に入ることが可能であっ
たと考えられる(福岡県立伝習館高校生物部
2018)。しかし、干潮時には高さが 160 cm あ
るコンクリートと鉄製の水門に改修されたた
め( Fig. 2A, B)、 シラスウナギが掘割内に侵入
することができなくなったと推測されている
(北部九州河川利用協会 2017; 福岡県立伝
習館高校生物部 2018)。
現在、地元の高校や NPO 法人によって、本
種を掘割に復活させる取り組みが行われてお
り、その一環として柳川市周辺の矢部川や塩
塚川でシラスウナギを採集し(田中 2018)、
飼育して 7–9 cm 程度に成長した個体を掘割
内に放流している(福岡県立伝習館高校生物
部 2018, 2021)。しかし、放流後に再捕獲され
たニホンウナギはほとんどが全長 10 cm 前後
の個体であり、大きいものでも 17.5 cm であ
る(福岡県立伝習館高校生物部 2018, 2021)。
したがって、放流個体が掘割内に定着し、銀
ウナギまで成長しているのかは定かではない。
一方、掘割への天然ウナギの侵入は水門によ
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
って阻害されていると考えられているが、全
長10 cm 程度の個体が堰高 165 cm の垂直堰を
超えることが報告されている(Kume et al.
2022)。 そのため、柳川市の掘割にも天然個体
が改修された水門の壁をつたって侵入する可
能性はある。また、地元の高校が掘割に放流
したニホンウナギが掘割の南部に存在する農
業用の用水路で採集されており(福岡県立伝
習館高校生物部 2021)、本種が掘割から用水
路へ移動できる経路が存在することが分かっ
ている。さらに、用水路の南西部は塩塚川と
つながっていることから(Fig. 1)、塩塚川から
天然のニホンウナギが掘割に遡上している可
能性もある。このように掘割にはニホンウナ
ギが生息できる環境があるとともに、天然個
体が侵入している可能性がある。人工的な環
境である掘割の中で生息し、環境の悪化によ
り一度はほとんど確認されなくなった本種が、
地域住民の活動によって環境が改善したこと
で再び掘割内で生息しているならば、自然環
境である河川で護岸工事を行ったとしても、
ニホンウナギにとって適切な環境を整えるこ
とで、本種と人間が共存していくことが十分
可能であることを示す重要な事例になる。そ
のためにも、掘割内における現在の本種の生
息状況を確認する必要がある。そこで本研究
では、掘割内においてニホンウナギを採集す
ることで、掘割に本種が生息しているかを明
らかにすることを目的とした。また、掘割に
生息している場合には、全長と体重や利用し
ている生息環境を記録した。
材料と方法
福岡県柳川市の掘割内において(Fig. 1)、
2021 年10 月10 日、2022 年2月21 日、3月
26 日、11 月25 日、2023 年2月19 日の 5日
間、電気ショッカー(LR-20B, SmithRoot,
Vancouver, WA, USA)を用いてニホンウナギの
採集調査を実施した。採集調査を行った 6地
点(①〜⑥)の掘割環境(Fig. 1C, D, Fig. 2)
は以下の通りである。①は石積みの河岸で一
部が丸太柵工で護岸されている。主な底質は
泥、両岸沿いには礫が存在する。また、北西側
には沖端川へとつながる水門が設置されてい
る。②は石積みの河岸で主な底質は泥であり、
曲がり角の位置にはコンクリート土管が埋め
られている。土管や河岸沿いには礫が存在す
る。③はコンクリート護岸で主な底質は泥で
ある。④は石積み河岸で主な底質は泥である。
⑤は石積み河岸で底質は泥の部分と砂の部分
が存在する。また、河岸沿いに水藻が生育し
ている部分も存在する。⑥は石積み河岸で一
部が丸太柵工で護岸されている。主な底質は
泥、両岸沿いには礫が存在する。①は 2021 年
10 月10 日、2022 年2月21 日、11 月25 日、
2023 年2月19 日の 4回、②は 2022 年2月21
日、2023 年2月19 日の 2回、③は 2021 年10
月10 日の 1回、④は 2022 年2月21 日の 1
回、⑤は 2021 年10 月10 日、2022 年2月21
日、3月26 日の 3回、⑥は 2021 年10 月10
日、2023 年2月19 日の 2回、採集調査を行
った。
なお、2022年と2023年の2月の調査時には
掘割内が排水されており、最深部で水深80
cm程度まで水位が下がっていた。10月の調査
では採集個体の全長を、2022年2月以降に行
った4回の調査ではこれに加えて体重も計測
した。また、全個体についてsilverling index
(Okamura et al. 2007)をもとに成長段階を黄
ウナギと銀ウナギの2段階に分類して記録し
た。また、調査地周辺には鰻料理を扱う店舗
が複数存在するため、これらの店舗から逃げ
出した個体でないことを確認する必要があ
ったため、鈴木ら(2017)をもとに天然の黄
ウナギに比べて体色が黒色であるものを養
殖個体と判断した。なお、この方法では放流
後1年以上が経過し、摂餌状況が良い養殖個
体は天然個体と判別できない可能性がある
が、今回は考慮しなかった。採集地点の位置
情報はGPSで取得し、底質は目視で判断した。
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
なお、底質の礫については直径4 mm未満のも
のを砂、4 mm以上64 mm未満のものを中礫、
64 mm以上256 mm未満のものを大礫、256 mm
以上のものを巨礫とした。現在、福岡県立伝
習館高校が本種を掘割に復活させる取り組
みの一環として、採集したシラスウナギを8
cm程度に成長させた後、掘割内に放流してい
る(福岡県立伝習館高校生物部 2018, 2021)。
放流する際には体内にマイクロワイヤータ
グが挿入されており、2014年10月から年3回
程度、石倉かごをもちいて再捕獲を試みてい
る(福岡県立伝習館高校生物部 2018, 2021)。
2021年4月までに74個体が再捕獲され、これ
らの個体についてはイラストマー蛍光タグ
で標識している(福岡県立伝習館高校生物部
2018, 2021)。放流個体が成長し全長が10 cm
よりも大きくなると、金属探知機を用いてマ
イクロワイヤータグを検出することが難し
くなる。そのため本研究では採集された個体
について、マイクロワイヤータグの検出は行
わず、目視でイラストマー蛍光タグの有無を
確認できた場合のみ、放流個体である判断す
ることとした。採集した個体は計測とイラス
トマー蛍光タグの有無を確認した後で採集
地点に放流した。
結果
5回の調査で合計 47 個体(10 月:5個体、
2月:13 個体、3月:5個体、11 月:3個体、
2月:21 個体)のニホンウナギを採集した
(Table 1)。 採集調査を行った 6地点のうち、
①では 13 個体、②では 3個体、④では 2個
体、⑤では 10 個体、⑥では 19 個体を採集し
た。一方、③ではニホンウナギを採集するこ
とができなかった。養殖のニホンウナギと思
われる個体(全長 497 mm)は 2022 年2月21
日の調査時に⑤で採集した 1個体のみであっ
た。採集した全ての個体にはイラストマー蛍
光タグが挿入されていなかった。全長は 122–
623 mm(平均 ± 標準偏差:337 ± 144 mm)、
体重は 1–280 g(81 ± 82 g)であった(Fig.
3)。成長段階については、黄ウナギが 45 個
体(全長 122–623 mm)、銀ウナギが 2個体(全
長526, 558 mm)であった(Table 1)。銀ウナ
ギは 2個体とも 11 月の調査で①において採
集された。本研究でニホンウナギが採集され
た地点の底質環境と採集個体数については、
泥中が 12 個体(うち 1個体はコンクリート
土管の下の泥中、1個体は杭の下の泥中、1個
体は礫下の泥中にいた)、礫下が 24 個体、土
嚢の隙間が 2個体、石垣やその木の下が 2個
体、砂中が 2個体であった(Table 1)。底質環
境とニホンウナギの全長範囲は砂泥で139–
558 mm、中・大礫で 122–493 mm、巨礫で 162–
623 mm、その他の底質で 422–492 mm であっ
た。それぞれの底質環境で採集されたニホン
ウナギのうち、比較的大型の全長が 400 mm
以上である個体は砂泥中が 14 個体中 6個体、
中・大礫が 13 個体中 3個体、巨礫が 11 個体
中7個体、その他の底質が 4個体中 4個体で
あった(Fig. 4)。
考察
本研究では、柳川市の掘割内において、47
個体のニホンウナギを採集することができた。
しかし、いずれの個体にもイラストマー蛍光
タグは挿入されていなかった。したがって、
採集されたニホンウナギが放流個体であるの
か天然個体であるのかは判別できなかった。
2021 年10 月から 2023 年2月にかけて 5回の
調査すべてで本種が採集され、その全長は
122–623 mm と多様であった。加えて、2022 年
11 月の調査では銀ウナギが 2個体採集された。
これらのことから、ニホンウナギは掘割内に
数年間定住し、成熟開始に至るまで成長して
いることが明らかとなった。今回は調査を行
った範囲と回数が限られているが、本研究の
結果から掘割はニホンウナギの生息・成育環
境の条件を少なからず備えているものと推測
される。
Table 1. Summary of Japanese eels caught in Horiwari at Yanagawa City, Fukuoka Prefecture,
Japan.
Growth stage was determined by silverling index (Okamura et al. 2007).
Sampling areas are corresponding to those shown in Fig. 1. Y: yellow eel stage, S: silver eel stage.
*Cultured eel that escaped from eel restaurant or eel farm.
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Fig. 3. Size compositions (A: total length, B: body
weight) of Japanese eels collected in Horiwari.
Fig. 4. Boxplots of total length of eels sorted by different substrates in Horiwari. Black dots are jitter
plots.
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
本研究では、ニホンウナギは掘割内部の礫
の下や砂泥の中、石垣の間隙などの本種が身
体を隠すことができる場所で採集された。こ
れらは先行研究で報告されているニホンウナ
ギの隠れ家と一致している(Aoyama et al.
2005; Kume et al. 2019, 2020; Matsushige et al.
2020)。また、全長が大きくなるにつれて本種
が利用する生息場所は変化すると考えられて
いる(Kume et al. 2020; Matsushige et al. 2020)。
本研究では、砂泥の中から発見された個体の
全長には偏りが無いように見える。しかし、
中礫や大礫で採集された個体は全長が 400
mm より小さいものが多く、巨礫や石垣など
で採集された個体は全長が 400 mm 以上のも
のが多い傾向が見られた。これらのことから、
掘割でも全長に依存して生息環境を変化させ
ている可能性がある。ただし、今回は調査を
行った期間が 10 月から 3月に限られており、
本種の生息場所利用の季節性は考慮していな
い。ニホンウナギは水温が 13 °C を下回ると
活動しにくくなることが知られている
(Itakura et al. 2018)。また、季節により生息場
所が変化するという報告もあることから
(Noda et al. 2021)、今後は夏季にも調査を行
い本種の生息環境を明らかにすることも必要
だと考える。
本研究で採集したニホンウナギは放流個体
であるか天然個体であるかは判断できなかっ
た。掘割の北西には沖端川、南東に塩塚川が
流れており、掘割との間を水門で仕切られて
いる。1970 年代までは木製の水門が設置され
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
ており、かつてはこの水門を通ってニホンウ
ナギが掘割に侵入していたと言われていた。
ところが、コンクリートと鉄製の水門に改修
されたことで掘割と周辺の河川が分断され、
本種が掘割に侵入できなくなったと考えられ
ている(福岡県立 伝 習 館 高 校 生物 部 2018,
2021)。しかし、実際に水門を観察すると、掘
割周辺の地域における生活用水や農業用水を
沖端川に排水するための水門には開門されて
いているものや閉門時でも流水が確認できる
ものがあり、天然のニホンウナギが侵入し水
門内部の垂直な壁を上ることで掘割内に達す
ることも考えられる。ニホンウナギが垂直な
壁を上るうえで壁の高さは大きな要因の一つ
であるものの(Kume et al. 2019, 2020; Yokouchi
et al. 2022)、 Kume et al.(2022)は 15 cm 未満
の個体が 165 cm の垂直堰を越えて上流に移
動すると報告している。したがって、水門内
の垂直な壁の高さが低ければ、ニホンウナギ
が壁を上って掘割内に侵入できる可能性が高
い。加えて、伝習館高校が掘割に放流した個
体が掘割の南部に存在する農業用の用水路で
採集されており(福岡県立伝習館高校生物部
2021)、ニホンウナギは掘割から用水路へ移動
可能であると言える。用水路の南西部には塩
塚川が存在するため、河川から侵入した天然
のニホンウナギが用水路を経由して掘割に達
することも考えられる。同じ地域の用水路で
は、天然個体であるとは判断できなかったも
のの、イラストマー蛍光タグで標識されてい
ない個体も採集されている(田嶋ら 未発表デ
ータ)。また、11 月の調査では黄ウナギ以外に
銀ウナギも採集されたため、掘割内で成長し、
銀ウナギとなった個体が増水などを利用して
水門や用水路を通って海に降下する可能性が
高いと考えられる。
本研究により採集されたニホンウナギは幅
広い全長を有しており、銀ウナギも生息して
いたことから、柳川市の掘割は現在でも本種
にとって生息・成長できる環境があることが
明らかになった。また、ニホンウナギは掘割
中でも特に礫の下や石垣の間隙を隠れ家とし
て巧みに利用していた。しかしながら、人工
的に作られた環境である掘割には、このよう
な本種の隠れ家となるような礫や間隙は限ら
れている。したがって、掘割内に砂礫を投入
したり、コンクリート護岸ではなく石積みや
木杭を使用した護岸にしたりすることで、ニ
ホンウナギの隠れ家を増やし、本種の生息に
より適した環境を整備することができると考
えられる。その結果、掘割内における本種の
資源量が増大すると期待できる。本研究の結
果より、従前ニホンウナギの生息が確認され
ていた河川が護岸工事等で環境が変化して個
体数が減少したとしても、適切な成育環境を
整えることで個体数の回復に寄与できると考
えられる。掘割内においてニホンウナギの個
体数を増加させ、適切な成長を促すことは、
人間と本種が共生していくことが十分可能で
あることを示す重要な実例であると言える。
加えて、天然のニホンウナギが用水路や水門
を通って周辺の河川から掘割内に侵入してい
る可能性が考えられるため、水門の構造をニ
ホンウナギが通り抜けやすいものに改善する
ことも本種の個体数を増加させることにつな
がると期待される。そのためにも今後、掘割
全域における生息環境調査を行うことで、掘
割内でのニホンウナギの分布や好適生息環境
を明らかにすることが必要であろう。また、
天然個体が掘割に侵入しているかを確認すべ
きである。もし、天然個体が侵入しているな
らば、河川から掘割に侵入する経路も明らか
にすることが重要となる。これらを通じて、
掘割におけるニホンウナギをはじめとした水
生生物の生息環境を改善することが期待され
る。
謝辞
本研究の一部は、2021 年度河川基金助成事
業(助成番号 2021-6111-013)、公益信託富士
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フィルム・グリーンファンド 2022 年度研究
助成(助成番号 205)により行われました。
また、福岡県立伝習館高等学校の木庭慎治教
諭には放流個体に装着されたマイクロワイ
ヤータグやイラストマー蛍光標識に関する
情報をいただきました。心より感謝申し上げ
ます。
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和文要旨
ニホンウナギ Anguilla japonica はかつて日本全国で豊富に漁獲された。しかし、現在は
個体数が激減している。福岡県柳川市の掘割も本種の個体数が減少した場所の一つである。
これは、水門の改修に伴い、シラスウナギの川から掘割内への侵入個体が激減したことが要
因であると考えられている。現在、地元の高校や NPO 法人により掘割へのニホンウナギの
放流活動が行われている。しかしながら、野生個体または放流個体が掘割内に定着している
かは明らかになっていない。そこで本研究では、現在、福岡県柳川市の掘割にニホンウナギ
が生息しているかを明らかにするため、電気ショッカーを用いて本種の採集を試みた。その
結果、5回の調査(2021 年10 月、2022 年2月・3月・11 月、2023 年2月)において、合計
47 個体のニホンウナギを採集した。採集した個体が放流個体か天然個体かは判断すること
ができなかった。採集された個体の全長は 122–623 mm の範囲であった。47 個体のうち 2個
体の銀ウナギが 2022 年11 月の調査時に採集され、残りの 45 個体は黄ウナギですべての調
査時に採集された。砂泥中からは 139 mm から 558 mm まで様々な全長の個体が採集され
た。中・大礫から採集された個体に比べ、巨礫や石垣から採集された個体の全長は大きい傾
向があった。調査月の違いやウナギの全長に関わりなく本種を採集できたことから、掘割は
ニホンウナギが生息・成長するための環境を少なからず備えていると推測した。
Received: 18 March 2023 | Accepted: 23 May 2023 | Published: 1 June 2023
Aquatic Animals 2023 | June 1 | Tajima et al. AA2023-11
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