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日集中医誌 2022;29:539-40.
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短 報
A case of latter-stage elderly COVID-19 patient with severe respiratory failure treated by veno venous ECMO
Tokito Koga*1, Jumpei Takamatsu*2, Aya Fukuhara*2, Seiko Fushimi*3
*1 Department of Anesthesiology, Hyogo Prefectural Nishinomiya Hospital (13-9 Rokutanji-cho, Nishinomiya, Hyogo 662-0918, Japan)
*2 Department of Emergency Medicine, * 3 Department of Nursing, Kansai Rosai Hospital(3-1-69 Inabasou, Amagasaki, Hyogo 660-8511, Japan)
J Jpn Soc Intensive Care Med 2022;29:539-40.
はじめに
高齢者に対するveno venous extracorporeal membrane
oxygenation(ECMO)はCOVID-19において一般的に
は適応外とされる。今回,我々は身体機能が保たれた
後期高齢者のCOVID-19重症呼吸不全患者に対し
ECMOを使用した症例を経験したため報告する。
症 例
患者:77 歳,男性。身長164 cm,体重 68.4 k g,B MI
25.4,体表面積 1.75 m2。
既往歴:高血圧,糖尿病(HbA1c 6.7%),脂質異常症。
現病歴:入院5日前から39℃の発熱と咳を自覚した
が,呼吸困難や味覚障害はなかった。同2日前にかかり
つけ医を受診したが唾液を採取できず,待機的な severe
acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)
のpolymerase chain reaction(PCR)検査が手配された。
しかし,検査前日に呼吸状態が悪化し,当院へ救急搬送
された。スポーツジム以外の外出は制限していた。
来院時GCS E4V5M6,体温36.4℃,血圧130/76 mmHg,
脈拍143/min(整),呼吸数 28/min,SpO2 70%(リザー
バ付き酸素マスク15 L/min)であった。両肺野で
coarse crackleを聴取し,皮膚の湿潤を認めた。
入院時検査所見:白血球19,800/ μ L,CRP 27.7 mg/
dLと炎症反応の上昇を認めた。動脈血液ガス分析で
PaO2 40 mmHg と高度の低酸素血症を認めたが,換気
障害はなかった。SARS-Co V-2 の抗原定性検査が陽性
であり,COVID-19 による重症呼吸不全と診断した。な
お,第2病日に PCR 検査も陽性と判明した。来院時の
胸部X線写真および胸部CT を Fig. 1に示す。
人工呼吸器管理を開始したが,FIO2 1.0,PEEP 10
cmH2O下でPaO2 79 mmHgと低値でありMurray
sc oreも 3 であったことからECMO の導入を決定した。
右大腿静脈から24 Fr の脱血管を,右内頸静脈から20
Fr の送血管を挿入し,EC MO 回路はメラ遠心血液ポン
プシステム HAS-CFP(泉工医科工業)を使用し,3,840
rpm,FDO2 1.0,sweep gas 2.5 L/min,血液流量4.8 L/
minで開始した。人工呼吸器はlung r est設定の 1 回換
気量6 mg/kg,PEEP 5 cmH2Oとした。レムデシビル
とデキサメタゾンを開始し,未分画ヘパリンナトリウ
ムによる抗凝固療法も施行した。細菌性肺炎感染合併
の可能性も考慮し,メロペネム,リネゾリド,アジスロ
マイシンの点滴静注も併用したが,喀痰培養の陰性を
確認後,第4 病日に終了した。
第5病日から利尿薬を開始したところ徐々に胸部X線
写真での透過性の改善,酸素化の改善を認めたため,第 9
病日にE CMOを離脱し,第16病日に人工呼吸器を離脱
した。その間,methicillin-resistant Staphylococcus
aureus
(MRSA)やクレブシエラによる肺炎を併発した
ため,リネゾリド,セファゾリンで加療した。長期挿管
後の影響でせん妄と嚥下障害を認めたが,全身状態は安
定していたため,経鼻カニューレ2 L/min と少量の酸素
を使用したまま第34 病日に後方病院へ転院した。
考 察
本症例はCOV ID-19重症呼吸不全を来した後期高齢
者にECM Oを導入した1 例である。厚生労働省が作成
後期高齢者の COVID-19重症呼吸不全に対して veno venous
ECMO を使用した 1症例
古賀 聡人*1 高松 純平*2 福原 彩*2 伏見 聖子*3
Key words: ① COVID-19, ② veno venous ECMO, ③latter-stage elderly
*1兵庫県立西宮病院麻酔科(〒 662-0918 兵庫県西宮市六湛寺町13-9)
*2関西ろうさい病院救急部,*3 同 看護部(〒 660-8511 兵庫県尼崎市稲葉荘3-1-69)
この論文は今号のハイライトで取り上ています。
澤村 匡史.高齢者の侵襲的治療と無益性.日集中医誌
2022;29:495-7.
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 29 No. 5
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した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手
引き(第 4.1版)」において ECMO は PEEP 10 cmH2O ,P /
F比<100で進行性に悪化する場合に考慮する,となって
いる1) 。高圧での人工呼吸器管理が続けば予後が悪くな
ることから,本症例において ECMO の導入は妥当であっ
たと考える。腹臥位療法でECMOを回避できるように
なった感染流行第3波以降でも,人工呼吸が必要な患者の
10 人に 1人がECMO を装着しているのが現状である。
一方,COVID-19のECMO 治療にはかなりの人員と労
力が必要となる。日本COVID-19 対策 ECMOnet が作成
した「COVID-19 急性呼吸不全への人工呼吸とECMO基
本的注意事項」では,年齢65~70歳以上は予後が悪く,
一般的には適応外,と記載されている 2) 。ただし,参考
とされたDeatrickらの報告は,ECMO 施行 182 症例のう
ち45歳以下の生存退院率に対し65歳以上で低かった
(84.6% vs. 16.7%),という単施設のデータに過ぎな
い3) 。これに対しGiani らは自施設の ECMO 施行144 症
例のうち生存率が低い65歳以上でも 56%が生存退院し
ていることから65歳以上を絶対的な禁忌とせず併存疾
患も含めて検討すべき,と反論を出した4) 。Deatrickら
もこれに同意し,リスクとベネフィット,また活用可能
な資源から個々に検討していくべき,と述べている5) 。
Extracorporeal Life Support OrganizationのCOVID-19
に対するガイドラインでも,Frailtyが絶対禁忌に分類さ
れているのに対し65 歳以上は相対禁忌に留まる6) 。
爆発的流行期には医療資源の制約に基づき,より健康
状態の回復が期待される患者に優先的に資源を振り分け
ることが求められる7)が,医療が逼迫していない中では
高齢者であっても年齢だけでなく併存疾患,身体機能,
施設や地域の医療資源などを総合的に評価したうえで,
EC MO の導入を検討してもよいかもしれない。ただし,
その場合でも先の見えない治療とならないようECMO
の中止基準について導入前に決めておく必要がある8) 。
結 語
77 歳の COVID-1 9重症呼吸不全に対しECMOを使用
した1例を経験した。高齢者であっても,患者要因や環
境要因などを総合的に評価したうえで,ECMO の導入
を検討できる可能性が示唆された。
症例の報告については,患者および家族から書面で同意を
得ている。
本稿の全ての著者には規定されたCOIはない。
文 献
1) 厚生労働省,診療の手引き検討委員会.新型コロナウイルス
感染症(COVID-19)診療の手引き第 4.1 版.2020 .Available
from: https://www.mhlw.go.jp/content/000712473.pdf
(2021年9月6日閲覧)
2) 日本集中治療医学会,日本救急医学会,日本呼吸療法医学
会,他.COVID-19 急性呼吸不全への人工呼吸とECMO 基
本的注意事項.2020年 3 月24日,第 2版.Available from:
https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19-
ECMOnet-info_20200324.pdf
3) Deatrick KB, Mazzeffi MA, Galvagno SM Jr, et al.
Outcomes of Venovenous Extracorporeal Membrane
Oxygenation When Stratied by Age: How Old Is Too
Old?. ASAIO J 2020;66:946-51.
4) Giani M, Forlini C, Fumagalli B, et al. Indication for
Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation: Is
65 Years Old, Too Old?. ASAIO J 2021;67:e55.
5) Galvagno SM Jr, Mazze MA, Deatrick KB, et al. The
Age Barrier for VV ECMO-Where Should It Be?. ASAIO
J 2021;67:e56.
6) Extracorporeal Life Support Organization. COVID-19
Interim Guidelines. [cited 2021 Mar 17]. Available from:
https://www.elso.org/Portals/0/Files/pdf/ELSO%20
covid%20guidelines%20nal.pdf
7) Murugappan KR, Walsh DP, Mittel A, et al. Veno-venous
extracorporeal membrane oxygenation allocation in the
COVID-19 pandemic. J Crit Care 2021;61:221-6.
8) Hoyler MM, Kumar S, Thalappillil R, et al. VV-ECMO
usage in ARDS due to COVID-19: Clinical, practical and
ethical considerations. J Clin Anesth 2020;65:109893.
受付日2021年7月7日
採択日2022年2月1日
Fig. 1 Chest X-ray and CT showed bilateral lobe consolidation on admission