ArticlePDF Available

Impacts of Returning Home or Dropping In Just Before or During Evacuation from the 2011 East Japan Great Earthquake Tsunami

Authors:

Abstract

About 44% of the people who evacuated from the giant tsunami of the East Japan Great Earthquake returned home before starting evacuation or dropped in before they reached a safe place. The author used interview data of survivors collected by the City Bureau, the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism; and the Center for Space Information Science of the University of Tokyo, and analysed the purposes and consequences of returning home or dropping in by classifying the data into the rias coast area and the plain coast area, and into foot evacuation and automobile evacuation. Notable among many outcomes were: (1) When evacuees dropped in during evacuation, the time required to escape from tsunami inundation and reach a safe zone, became 3.2 times for foot evacuation in the plain coast area, and became 3.6 times for automobile evacuation in the rias coast area. (2) Safety confirmation and rescue of family, relative, and acquaintance were the most common purposes of returning home and dropping in. For dropping in by automobile, these accounted for 58% in the rias coast area and 64% in the plain coast area. (3) When the required times to reach a safe zone by foot evacuation and automobile evacuation were compared, the results were different according to the following combinations: evacuation in the rias coast or plain coast, evacuation after returning home or coming from home, and evacuation with or without dropping in. But, the data of number weighted averages of the required times for all combinations were almost the same for foot evacuation and automobile evacuation.
東日本大震災津波避難における帰宅行動と立ち寄り行動の影響
後藤洋三1)
1) 正会員 開発虎ノ門コンサルタント 特別技術顧問 博士(工学)
e-mail : gotoyozo@mti.biglobe.ne.jp
要 約
東日本大震災で自宅が全壊被害を受けた人達の中で、津波来襲までに帰宅した人や避難途中に家族の迎
えなどの立ち寄りをした人が、著者の単純加算で 44%に達していた。そこで国土交通省と東京大学空間
情報科学研究センターでまとめられた聞き取り調査データを用い、岩手県と宮城県の沿岸主要市町をリ
アス部と平野部に区分し、さらに徒歩避難と自動車避難に区分して、帰宅行動と立ち寄り行動の目的と
それらの影響を分析した。その結果、浸水域を脱して安全域に到達するまでの時間が、避難途中に立ち
寄りをすることにより平野部の徒歩避難で 3.2 倍、リアス部の自動車避難で 3.6 倍に増加すること、帰宅
や立ち寄りの目的には家族・親戚・知人の安否確認や迎えが多く、自動車を使用した立ち寄りの場合は
それらがリアス部で 58%、平野部で 64%に達すること、などがわかった。さらに、徒歩避難と自動車避
難が浸水域を脱して安全域に到達するまでの時間を比較すると、リアス部と平野部、帰宅の有無、立ち
寄りの有無、の組み合わせで結果が異なるが、全ての組み合わせをデータ数で加重平均して比較すると、
徒歩避難と自動車避難の時間はほぼ同じであった。
キーワード: 東日本大震災、津波避難、帰宅行動、立ち寄り行動、自動車避難
1.序章
1.1 研究の背景
東日本大震災で被災した住民の避難行動を著者等が現地調査1)した際に、地震発生直後に幼稚園、小
学校、老父母宅を自動車で駆け回ってから避難場所に向かった例(石巻市松原町)や、狭隘な避難路を
自動車で逆行する人がいたため渋滞が起きた例(山田町織笠、石巻市門脇町)が聞かれた。このような
立ち寄り行動や帰宅行動は「津波てんでんこ」の教えとは真逆であるが、自宅が全壊被害を被った人達
で帰宅や立ち寄りをしていた人が、著者の単純加算で44%に達し、その多くが自動車を使用していた。
中央防災会議の津波避難対策検討ワーキンググループ報告(平成247)2)は、徒歩避難を原則とする
が、自動車避難を検討せざるを得ない場合は、自動車避難を限界量以下に抑制するよう、各地域で合意
形成を図る必要があるとしている。この報告を受けて、例えば高知県黒潮町は徒歩避難を原則としつつ
自動車での避難行動も想定した対策を検討することとし、自動車避難容認地区を地域防災計画の中で明
示して、当該の地区では、地区防災計画でその地区の実情に沿った自動車避難のルールを定める事とし
ている3)。しかし、東日本大震災以降に起きた避難行動でも自動車が多用されており4)、日常的に車を使
用している地域で実効性のあるルールを策定することは容易でないと思われる。
そこで、東日本大震災の避難の調査記録から、帰宅や立ち寄りが徒歩と自動車の避難に及ぼす影響を
定量的に分析し、地域が避難ルールを作成する際の資料として提供することを、この研究の目的とした。
- 86 -
日本地震工学会論文集 第16巻、第10号、2016
1.2 津波避難の実態に関わる既往の調査研
1896年明治三陸地震津波から1960年チリ地震津波までの津波避難の実情と教訓が、中央防災会議の災
害教訓の継承に関する専門調査会でまとめられている5)。その中で、1896年明治三陸地震津波(月曜日
1932分に発生)で既に、避難路の照明、高台への最短距離の避難、拠点施設と要員の安全確保、通信
と交通の確保、火災対策、過去の津波被災経験の固定化の弊害など、現在にも通じる教訓が残されてい
ること、1923年関東地震(土曜日1158分に発生)では、1703年元禄関東地震津波の教訓が伝承され速
やかな避難で人的被害がほとんど無かった地域があったこと、1960年チリ地震津波(月曜日の明け方)
で、漁に出ようとした漁師や消防団員が異常を察知し、地域に警報を発して多くの人命が救われたが、
過去の経験から安全と思い込まれていた一部湾奥で大きな被害が発生したこと、などが報告されている。
チリ地震津波以来の津波災害となった1983年日本海中部地震(木曜日の120分に発生)では、東京大
学新聞研究所が能代市民723人に面接調査し6)、津波に関する知識と警戒心を欠いた市民が多かったため
「正常化の偏見」が働いたこと、地震後に帰宅した人が4割弱おり、自宅から子供を迎えに行った人が約
6%いたことを報告している。首藤7)1986年の論文で津波と防災を先見的に論じていて、津波が防潮堤
を越流する場合を想定した対策が必要で有り、予想津波高さ3mと言う警報は防潮堤がある程度整った地
域では住民の避難行動に結びつかずテレビ等からの情報待ちを招く、と指摘している。
1989年三陸沖地震(木曜日325分に発生)では、斎藤8)が警報と避難命令が発令されながら避難が低
調だった地域の住民を調査しており、昭和三陸津波の伝承が薄れる一方、1952年の気象庁の津波警報業
務開始以来警報が13回発令されていて、住民に警報慣れが生じていたと推測している。
1993年北海道南西沖地震(月曜日2217分に発生)における津波避難については、東京大学新聞研究所9)
と宮野10)がアンケートとヒヤリングで詳細な調査を行っており、最も被害の大きかった奥尻島青苗5
区では5分以内の避難開始が生死の分けたこと、約半数に近い家族が自動車で避難したが自動車だったか
ら危険だったとは必ずしも言えないこと、などを報告した。牛山・他11)は日本海中部地震と北海道南西
沖地震の奥尻島青苗5区における被災者の行動分析を行い、地震発生から2分後に徒歩で無駄ない避難
始めたとしても、亡くなった人の内で助かる可能性が有ったのは日本海中部地震で23%、北海道南西沖
地震で16%に限られるので、ハードを含む総合的対策が必要である、と述べている。
2003年宮城県沖の地震(月曜日1824分に発生)で、気仙沼市では震度5強が観測されたが、住民への
避難の呼びかけはなかった。片田・他12)はその際の気仙沼市住民3,617人の意識を調査し、多くの住民は
津波の来襲を考えながらも、身の危険を感じていた人は30%程度で、40%以上の住民には避難する意思
がなかったこと、多くの住民が海の様子を見に行ったこと、などを指摘した。そして、1)固定化した津
波災害イメージの打破、2)津波の発生メカニズムに及ぶ深い現象理解、3)過剰な津波情報依存の脱却、
4)正常化の偏見の払拭、5)津波情報を正しく理解する能力の向上、を目標とする防災教育を提言した。
田中・他13)2004年紀伊半島沖地震(日曜日2357分に発生)で津波注意報が発令された東海地域の
住民の対応を調査し、警報によって津波の危険性を観念的に認知するレベルと、自分の地域に起こって
いる状況を把握し避難行動を取るレベルの間に、大きなギャップがあること、そのため、住民の災害イ
メージ力を上げ、住民が地震から津波を連想し、曖昧な警報に直面しても安全率を見込んだ自己責任で
行動するよう促すこと、を提唱している。桑沢・他14)は同地震に対する尾鷲市の住民の反応を調査して
津波避難の意思決定モデルを組み入れた避難シミュレーションを開発し、それを用いて、正常化の偏見
を払拭し平時から地域の津波危険度を正しく意識させる防災教育が効果的であることを示した。
加藤・他15)2006年千島列島沖地震(水曜日2014分に発生)で釧路市の避難勧告が発令された地区
の住民を調査し、津波警報や避難勧告の認知が避難行動につながっていない事を指摘した。そして、津
波警報や避難勧告の重大さを周知すること、災害の見える化や避難訓練などにより災害の疑似体験を進
めること、避難距離を短縮し容易にすることで避難を促進すること、などが重要であるとした。
以上で2011年に東日本大震災発生が発生するまでの津波避難の調査研究動向を見てきたが、この研究
の主題である帰宅行動と立ち寄り行動が問題となるのは週日の昼間に大きな津波が発生した場合である。
明治以降でそれに該当するのは、1923年関東地震(土曜日1158分に発生)1944年東海東南海地震(木
曜日1336分発生)1983年日本海中部地(木曜日120分に発生)3回のみであった。そのため、津
波避難における帰宅行動と立ち寄り行動は主要な研究対象とならず、調査記録も限られていた。一方、
自動車避難が問題となるのは普及率から見て1960年のチリ地震津波以降のことで、斎藤8)1989年三陸
- 87 -
沖地震の際に避難場所周辺で自動車が渋滞したことから、自動車避難が問題になることを指摘した。そ
して、1993年北海道南西沖地震では自動車避難の適否が議論された。しかし、それから東日本大震災ま
での間は、警報が出ても避難しない人が多いことが主要な研究対象となってきて、津波避難における自
動車使用の適否を詳しく調査し分析した文献は見当たらない。
東日本大震災が発生してからは、多くの調査と分析が実施され、金曜日の1446分に発生したことか
ら、帰宅行動と立ち寄り行動、それに伴う自動車使用についても検討が行われるようになった。
内閣府(防災担当)・消防庁・気象庁は、20137月に岩手県宮城県福島県の避難所と仮設住宅入居者
に面接して避難行動の調査を行い16)地震の揺れが収まってからすぐに避難しなかった人が42%N=870
以下回答者総数をN=XXで示す)いて、その理由として「家族を探しにいったり迎えにいったりしたか
ら」が21%「自宅に戻ったから」が22%N=361、複数回答可)であったこと、また、避難に自動車を
使用した人は57%N=857で、その理由として「家族を探したり迎えに行こうと思った」16%N=485
複数回答可)あったことを報告している。さらに内閣府(防災担当)は、2014年に岩手宮城福島の3県
の沿岸市町村で住民にアンケートを行い17)、津波が押し寄せてくるまでの間に、同じ建物以外にいた誰
かの様子を見に行ったり迎えに行ったりした人が48.0%N=10,051、以下複数回答可)、勤務先の仕事を
中断して自宅に戻った人が43.1%N=2,858自動車避難が52.5%N=7,697、自動車を使った理由とし
て「家族を探したり迎えに行こうと思った」を挙げた人が13.6%N=4,199)いたことを報告している。
国土交通省住宅局は、20119月から12月に、青森県から千葉県の沿岸49市町村において個人10,603人、
事業所985カ所に聞き取りを行って避難行動を調査しており、人の移動経路データをそれぞれに行動目的
を付したトリップのチェインとして整理している18)。その中で、地震直後の144614:50において発生
した移動(N=2,210の内の42%は避難目的であったが、家族・親戚・知人の探索や被害状況の確認が
37%あったこと、全回答者10,603人の64%6,750人が自動車による避難を行っており、自動車を使用し
た理由として複数回答で「車でないと間に合わないと思った」が29.9%「家族で避難しようと思った」
26.3%「避難を始めた場所に車で来ていた」25.0%「安全な場所まで遠くて、車でないといけない」
23.5%「家族に避難困難者がいた」が14.9%「家族を探したり迎えに行こうと思った」が11.3%あっ
たことを報告している。
金井・他19)は、釜石市の津波による犠牲者の同居家族に設問することにより、同市の犠牲者の30.5%
N=925)の情報を収集した。そして、自宅が津波で被災した人で地震発生時に自宅外にいて犠牲にな
った人の21%N=53が帰宅途中または帰宅後に津波に流されていたこと、自宅が被災した人で自宅か
ら避難した生存者の20.4%N=805がどこかに立ち寄ってから避難しており、地震直後に行動を起こし
ても立ち寄りをした人は、避難場所に直行した人の3倍の割合で津波に遭遇していたことを報告している。
川・他20)は千葉県御宿町の住民の避難行動をアンケート調査し、自動車を使った人が約71%N=169
で、東日本大震災の3年前に想定で質問した際の回答の約5倍に達したこと、立ち寄り行動の多くは家
や財産の保護あるいは状況確認という根源的な要求から生じていることを報告している。
松林・他21)は、岩手県野田村で徒歩と自動車による避難行動を調査し、家族や知人を探したり救助し
たりするために自動車が利用されているが問題となるような混雑の原因にはなっていない、という結果
を示している。
関谷22)は東日本大震災における「避難」の迅速性について、住民は危機感がなかったからすぐに避難
しなかったのではなく、危機感があるからこそ家族を心配して迎えに行こうとして自動車を使っており、
避難渋滞は全体から見れば限られた現象であった、と述べている。
一方、大野・他23)は津波避難行動に関する564件の新聞記事から、個人が津波避難を始めようとする際
の判断基準と阻害要因を分析し、災害時に日常を転換して経験したことのない非日常を想起し行動する
ことの困難さを示した。すなわち、車社会では、日常で車を使っている人が、避難においても日常と同
じように車を使い、日常と同じように渋滞に対処するため、車を捨てて逃げる意識が生まれず、被害を
大きくしていることを指摘した。また、車社会が立ち寄り行動や帰宅行動を容易にし、その結果、保育
園に引き取りに来る親が増加し、対応する保育士の避難遅れなどを招くことを指摘した。
柳原・他24)は石巻市で実施した避難の実態調査から、自動車避難が約52%N=585を占め、自動車で
避難する場合でも近隣の避難場所に行くケースが多いこと、自動車避難者の1/4は津波が来るまでに一度
自宅に戻っていて、その場合の避難猶予時間は平均で約17分しかなかったこと、などを報告している。
- 88 -
以上でレビューした文献は津波避難の実態調査から得られた知見を主として示しているが、浦田・他
25)は避難行動を複数の行動が連接したトリップチェインととらえ、トリップを「移動開始時刻」と「避
難開始時刻」に区分、さらに移動開始と避難開始の間を他者支援(迎えに行く行動など)・情集(海
の様子を見に行くなど)・その他に区分し、陸前高田市における自らの調査と国土交通省の調査18)のデ
ータを使って、地震後経過時間と避難開始割合の関係を数値モデル化する試みを行っている。
一方、南海トラフ地震で被災が想定される地域においても、住民の意向調査とそれを踏まえた課題分
析が行われている。孫・他26)は、自主防災活動が盛んな高知県興津地区で東日本大震災後の住民の防災
意識を調査し、40%N=212)を超える住民が子供を学校に迎えに行くと答えたことを報告している。
佐々木・他27)は、岡山市内の津波浸水予想地域の住民に対して避難における自動車利用の意向を調査
し、半数N=1522)が「自動車で避難あるいはその可能性が高い」を選択しており、ほぼ毎日車を使う
人で、かつ、家族の多い人、要援護者の居る人、2名以上の幼児の居る人にその意向が強いことを示した。
照本28)は、和歌山県みなべ町で住民の意向を調査し、けが人が出た場合や夜間の場合に自動車の選択
が増えることから、自動車避難を含めた津波避難ルール案を作成した。その中で、地区ごとに避難ルー
ルを検討して予定自動車避難台数を報告しておくこと、自動車を使う場合の留意事項として、乗り合わ
せ、幹線道路の使用、続車に配慮した駐車、状況に応じた乗り捨て、などを励行することを提案した。
1.3 この研究の位置づけ
以上の既往研究のレビューで明らかなように、東日本大震災の発生までは、地震発生後の帰宅行動、
避難場所に向かう途上での立ち寄り行動、それらの行動との関連で発生する自動車使用について、系統
的な調査と研究はほとんど行われていなかった。一方、東日本大震災の発生後は、国の機関による大規
模な実態調査が行われ、直後避難、用事後避難、切迫避難の区分を導入した分析が行われた。また、個
別の市町村を対象とした研究室レベルの調査研究も活発に行われ、帰宅や立ち寄りの発生要因と自動車
避難との関連性についても分析されるようになった。しかし、帰宅や立ち寄りの影響を、主要被災域を
統合して定量評価した研究、それらと自動車避難の関係を定量的に分析した研究は行われていない。
この研究の新規性は、主要な被災域をリアス部と平野部に区分し、避難方法を徒歩と自動車に区分し
て ①帰宅や立ち寄りの影響を、避難開始時間と安全域到達時間(浸水域から脱するまでの時間)、浸
水域から脱するまでの移動距離と移動速度、で定量的に評価したところ、②地震時に自宅に居たか津波
が来襲するまでに自宅に戻った人で自宅が全壊被害を被った人、すなわち避難しなければ命を失う危険
性があった人を対象にすることにより、明瞭な条件の下で集計したところ、にある。なお、この研究は
避難の過程をトリップチェインととらえる点において浦田・他の研究と視点を一にしているが、モデル
化は行わず、主要な被災域を統合した定量的な評価結果を示すことに注力している
1.4 この論文の構成
1章は序章として、研究の背景、既往研究のレビュー、ならびにこの研究の位置づけを示している。
2章は、研究対象地域、使用するデータベース、ならびに被災域を統合して分析するためのデータの取
り扱い方法を述べている。第3章は、帰宅行動の目的、帰宅に伴う移動距離、所要時間、移動手段、の分
析結果をリアス部と平野部に分けて示している。4章は、避難行動における立ち寄りの割合、その目的、
移動距離と所要時間の増加、移動手段、の分析結果をリアス部と平野部に分けて示している。5章、
帰宅、立ち寄り、自動車使用の有無が避難の開始時間と安全域到達時間に及ぼした影響、の分析結果を
リアス部と平野部に分けて示している。第6章はまとめである。
2. 対象自治体の選択、データの取り扱い方法、生存者のみのデータによる分析の有意性
2.1 復興支援調査アーカイブ、リアス部と平野部の区分、分析対象自治体の選択について
この研究では、住民の避難行動の分析に、復興支援調査アーカイブ(以下、アーカイブと略記)29)
データを使用する。このアーカイブは、国土交通省都市局が2011年度後半に実施した復興支援調査30)
結果(12節で紹介した文献18)はその分析結果の一つ)を東京大学空間情報科学研究センターがアー
カイブ化したもので、個々の調査票レベルのデータがGISの位置情報と関連づけられて収められている。
- 89 -
データは自治体毎にまとめられ、全データにリアス部(石巻市牡鹿半島以北)と平野部(石巻市本庁地
区以南)に区分したラベルが付けられている。東日本大震災の津波主要波の到達時間はリアス部で地震
発生から3035分後、宮城県の平野部で 60~70分後、と明確な差があり、地形も異なるので、この研究
でもリアス部と平野部の区分を踏襲した。
分析の対象とする自治体には、岩手県と宮城県のリアス部と平野部からそれぞれ10自治体を選択した。
リアス部は、宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市、気仙沼市、南三陸町、女川町、
石巻市リアス部である。平野部は、石巻市平野部、東松島市、七ヶ浜町、多賀城市、仙台市宮城野区、
同若林区、名取市、岩沼市、亘理町、山元町である。宮古市より北の自治体と宮城県の松島町と塩竃市
はデータ数が少ないので除外した。福島県の自治体は調査困難地域があるので対象に含めなかった。
なお、復興支援調査は統一した仕様の下で自治体毎に調査会社に委託されて実施されていること、被
災者の認識や行動に関する調査は面談調査によっており、避難開始時間などの個別数値も聞き取りによ
って調査されていること、などを認識しておく必要がある。
2.2 データの性別年齢別分布の偏りの補正
アーカイブにまとめられている個人データの性別
年齢別分布を同地域における2010年の国勢調査のそ
れと比較すると、1のような乖離があった。男性の
20~50才と女性の70才以上のサンプル密度(性別年代
別で見たアーカイブの個人データ数/国勢調査人口
数)が低く、女性の50~69才の密度が高い傾向が見ら
れた。そこで、データの年齢分布が国勢調査から推
算される当該地域の年齢分布と相似になるように、
データにその年齢に応じた重み付け係数を掛けて補
正してから集計する方法をとった。ただし、1年齢
毎に細分して、また性別で分割して重み付けの係数
を定めると、データ数が過小となり安定性を欠くの
で、年齢のみを20~50才、50~69才、70才以上の3区分にして係数を求めた。この3区分は文献1で著者・
他が導入しており、年齢別被災率がそれぞれ平均レベル以下、平均レベル、平均レベル以上に相当する。
また、基準とする当該地域の年齢分布には、国勢調査で各自治体を平均137個の小地域区画に分割して集
計されている5才段階年齢分布に、当該区画内の全壊住宅戸数(アーカイブのデータ、悉皆調査)を掛け
て重み付けを行ってから平均することにより、全壊域の地域性を反映した年齢分布を使用した。120
の自治体の重み付け係数を単純平均した値と標準偏差を示す。平野部の方がサンプルの年齢構成に偏り
が大きかった様子がうかがえる。
ここで、上述した国勢調査の小地域区画のデータを被災家屋数で重み付けして年齢分布を求める方法
を検証するため、YOTSUI, et al.31)500mメッシュの国勢調査データを使って求めている沿岸被災市町村
の家屋流失域の年齢分布(全壊域の年齢分布は求められていない)と比較する。まず、比較可能な18
治体について250,000m2
500mメッシュの面積)以上の面積の小地域区画内の流失住宅数Lと同面積以下
の小地域区画内の流失住宅数Sを求める。次に、LSとなる13自治体とLSとなる5自治体に分けて、
YOTSUI, et al.の求めている年齢分布から計算した3区分年齢分布と、この研究が小地域区画から求めた3
区分年齢分布の年齢区分毎の差を求め、その差の二乗和平方根の平均値を比較した。その結果が表2で、
当該年代人数
2070以上人数計
表2 500mメッシュと小地域区分の年齢
分布を使った3区分年齢分布の差
差の二乗和平方根
平均値 σ
LS5自治体) 0.0177 0.0129
LS13自治体) 0.0054 0.0029
σ:母集団の標準偏差
表1 年齢別重み付け係数の平均値と標準偏差
20~50 50~69 70才以上
平均 σ 平均 σ 平均 σ
リアス部 1.10 0.12 0.87 0.08 1.13 0.12
平野部 1.68 1.18 0.87 0.23 1.28 1.40
σ:母集団の標準偏差
国勢調査
アーカイブデータ
1 年代別のデータ数と人口
7
0
- 90 -
LSすなわち、500mメッシュの面積より小さな小地域区画に入る流失住宅数の方が多い自治体におい
て、二つの方法の差が大きいことが分かる。YOTSUI, et alの方法では、流失域からはみ出すメッシュに
ついては流失域と重なる部分の面積率で補正して集計されているが、500mメッシュの平均値が使われる
事には変わりない。一般に区画を小さく取った方が真値に近くなるはずであるので、LSの場合は、
の研究の小地域区画の年齢分布データを用いる方法が地域性をより良く反映した結果になっていると考
えられる。LS の場合は、500mメッシュより大きな面積の小地域区画の年齢分布がより強く反映され
るが、面積の大きな小地域区画でも人口が集中しているのは沿岸部だけであることが多いので、500m
ッシュによる年齢分布との差が大きくならなかったと考えられる。
2.3 自治体毎のサンプル密度の偏りの補正
リアス部と平野部に区分して分析する場合、それぞれの区分に属する自治体におけるサンプル密(サ
ンプルされたデータ数/母集団のデータ数)がそれぞれの区分内で偏りがないように補正する必要があ
る。ここに、サンプル密度を計算する際の分母をどのように規定するかが問題となる。この研究では自
宅が全壊した被災者の避難行動データを分析することから、全壊住宅数を分母に取った。すなわち、リ
アス部と平野部に区分した各10の自治体において、アーカイブにおける自宅全壊のデータ数を悉皆調査
による全壊家屋数で割ってそれぞれの平均値とし、自治体ごとに次式で求める平均化のための重み付け
係数を求める。そして、自治体毎に纏められた自宅全壊者についてのデータに係数を掛けて集計した。
Σ各自治体の自宅全壊者のデータ数 当該自治体の全壊家屋数
Σ各自治体の全壊家屋数 当該自治体の自宅全壊者のデータ数
全壊家屋数はアーカイブの悉皆調査データを用いた。
自宅全壊者のデータには避難時間などが記入されてい
ない部分欠損のデータが含まれるが、この研究ではそれ
を含めてデータ数とした。表3に自治体毎の重み付け係
数の最大値と最小値、並びに標準偏差を示す。
2.4 アーカイブデータに関するその他の補
(1) 自治体の域外からの移動経路の影響と対処
アーカイブの自治体毎にまとめられている移動経路の GIS データ(以下、トリップデータ)において、
当該自治体の域外からの移動ならびに域外への移動の経路を記載している場合と、域内の移動経路のみ
を記載している場合があって、およそ半数が後者の域内のみの記載であった。ここに、隣接した自治体
から帰宅することがあるので、帰宅するまでの移動距離をこの GIS データから求めて集計すると実際よ
り小さく評価する可能性がある。その影響を把握するため、域外の移動経路まで記載していると見なさ
れる自治体のデータを使い、津波が来襲するまでに帰宅した人の帰宅距離を、域外を含めて計算した場
合と域外を除いて計算した場合で比較した。表 4がその結果である。自動車帰宅では、リアス部より平
野部の方が域外からの帰宅の割合が高くなるので、域内走行距離を域外も含めた走行距離で割った値は
0.88 となった(黄色)。徒歩帰宅の場合はデータの全てが域内からの帰宅であったため割った値は 1.0
であった。なお、自治体の中から外に避難する場合の移動距離の計算においても同様の問題が生じるが、
避難場所は当該自治体内となることが多いので、その影響は帰宅の場合より小さいと考えられる。
表4 域外(当該自治体外)を含めた帰宅距離と域外を除いた帰宅距離の比較
域外移動の記
述を含むデー
タセット数
域外移動がある
データ数
域外を含めた帰
宅距離の平均(m)
域外を除いた帰
宅距離の平均(m)
比率(域外除く
/域外含む)
徒歩 自動車 徒歩 自動車 徒歩 自動車 徒歩 自動車
リアス部 5 48 101 381 3270 381 3107 1.0 0.95
平野部 3 6 46 154 3864 154 3393 1.0 0.88
表3 自治体毎の重み付け係数の最大最小
最大値 最小値 σ
リアス部 1.55 0.744 0.270
平野部 1.85 0.411 0.410
σ:母集団の標準偏差
重み付け係数=――――――――――――――――×――――――――――――――――― (1)
- 91 -
(2) アーカイブ内の先行調査と本調査の違いへの対処
復興支援調査では、本研究で対象にした20自治体の
内の南三陸町、名取市、岩沼市の調査が先行調査とし
て実施された。この先行調査では、移動目的が複数回
答で調査されていて、移動経路を記述するトリップデ
ータ毎に複数の移動目的が記載されている。残り17
自治体では本調査が実施され、移動目的が単一回答で
調査された。そこで、統合して集計するためには複数
回答を単一回答に変換する必要がある。幸い、先行調
査で実際に複数回答されている割合は7.4%と少なかっ
たので、表5に示すルールを定め、厳密性を欠くが「避
難するため」を第一優先、「家族親類の安否確認」を
2優先にして複数回答を単一回答に変換した。
(3) 自宅全壊と津波来襲時間帯のデータに限定
この研究は避難しなければ命が危なかった人の行動
を分析の対象としているので、自宅が全壊した人で津
波の主要波が来襲し終わった時間(リアス部60分、平
野部90分とした)までのトリップデータを分析の対象とした。トリップの時間記述が不明な場合は対象
から除外した。これらの処置によるデータの除外率は31.0%であった。
(4) 自宅に居たか否か、自宅に戻ったか否か、の調査結果とトリップデータの矛盾の解消
「地震時にどこに居たか?」と「地震発生から津波来襲までに帰宅したか?」の調査と移動経路(ト
リップ)の調査は別に設問されたおり、トリップデータをチェックして以下の修正を行った。
1) 地震時に自宅外に居たと回答し、揺れが収まってから何をしたかの問い(複数回答)「すぐ自宅に
戻った」を選択しているが、トリップデータで自宅が一度も選択されていない場合は、帰宅していない
とした。この処置によるデータの変更率は1.8%であった。
2) 地震発生時に自宅外にいたと回答した場合か、トリップデータの避難開始点が自宅外になっている場
合で、トリップ先で自宅・近所あるいは自宅の2階以上を選択、あるいは経由している場合は、全て「す
ぐ自宅に戻った」とした。この処置によるデータの変更率は10.2%であった。
3) 地震時に自宅外にいたとしていて、トリップデータの移動開始点が自宅近所あるいは自宅の2階以
上となっている場合は、「すぐ自宅に戻った」とした。この処置によるデータの変更率は3.7%であった。
4) 以上を反映した上で、自宅外に居てすぐ自宅に戻った」が選択されていない、あるいはトリップデ
ータで自宅が選択されていない場合は、分析の対象外とした。このデータの除外率14.3%であった。
(5) 生存者のみのデータによる分析の有意
本研究では4章と5章で自宅から避難を始めた人達の行動を分析するので、自宅から避難した人の何%
が亡くなっていたかに注目する。ここに、三上32) は岩手県山田町と宮城県石巻市で亡くなった人の情報
を集め、避難や立ち寄りの途中で亡くなった人は山田町で37%N=74、石巻市で31%N=816(文献
32の表4から算出)とするデータを示している。この値に死者行方不明者の総数を掛けて避難や立ち寄り
の途中で亡くなった人数を求めると、山田町で300人、石巻市で1,200人となる。
一方、全壊した家屋の数に一世帯当たりの平均人数を掛けて全壊家屋人口を概算すると、山田町は
9,800人、石巻市は80,000人である。ここに、山田町と石巻市(平野部)の避難所と仮設住宅の入居者へ
の調査33)から、地震時に自宅に居た人とすぐ帰宅した人の合計は、山田町で75%
N=212、石 69%
N=971(文献33の表10から算出)、避難した人は 94%
N=212)と83%N=971(文献33の表24から
算出)と報告されている。この在宅率と避難率を全壊家屋人口に適用すると、全壊家屋から避難した人
は、山田町で6,900人、石巻市で46,000人と推算できる。そして、避難中に亡くなった人が全て全壊家屋
に居たかそこに帰宅した人であると仮定して、避難した人全体に占めるその割合を求めると、山田町で
4.2%石巻市で2.5% と小さな値になる。したがって、仮に亡くなった人のデータを加えて集計しても、
結果に大きな変化はなく、生存者のデータから帰宅や避難の動向を分析することは可能と考えられる。
勿論、亡くなった人の行動の特殊性を生存者のデータから類推して分析する様なことは出来ない。
表5 複数回答から単一回答を選択する
ルール
優先
順位 先行調査の移動目的の
選択項目 本調査の
項目
2 1. 家族・親戚・知人の安
否確認(様子見) 1
3 2. 家族親戚知人を探した
り、迎えに行ったりした 2
4 3. 被害の状況確認 3
5 4. 避難の用意のため 4
1 5. 避難のため 5
8 6. 地震の後片付けのため 7
7 7. 避難を呼び掛けたり手
助けしたりするため 8
6 8. 救助のため 9
9 9. その他業務のため 10
10 10. 11
- 92 -
3.帰宅行動の分析
以下は、特記の無い限り、22節から24節の補正を経たアーカイブのデータについての分析である。
3.1 帰宅の割合
6に自宅が全壊被害を受けた人で、地震発生時に自宅に居た人と津波が来るまでにすぐ帰宅した人の
割合を示す。すぐ帰宅した人の割合は、リアス部で22.9% 、平野部で27.4%である。ただし、外出先か
ら自宅に戻るトリップデータに有意な記載があって、帰宅の目的、移動手段を分析できるデータはリア
ス部で18.0%、平野部で17.8%であった。なお、内閣府・他の調査16)では、すぐ避難しなかった人の22%
N=361)が「自宅に戻った」を理由として挙げており、翌年の内閣府の調査17)では、職場にいた人の
43%N=2,858が仕事を中断して「自宅に戻った」となっている。国土交通省の調査18)では、青森県か
ら千葉県沿岸で、自宅全壊に限定せずに調査された人の15.0%N=10,603)が「すぐに自宅に戻った」
となっている。
3.2 帰宅の目的
7に帰宅の目的を示す。家族親戚知人の安否を確認したり、探したり、迎えに行ったりの合計は、
リアス部で51.1%、平野部で46.9%となる。さらに、被害の状況確認を合算すると、帰宅目的に占めるそ
れらの割合は、リアス部で65.1%、平野部で68.9%となる。
3.3 帰宅の際の移動手段と時間、距離、速
2に帰宅する際の移動手段を示した。自動車の利用が多く、特に平野部では75.4%である。
8に帰宅に要した時間、移動距離、移動速度を示した。自動車使用の場合についてリアス部と平野部
の移動速度を比較すると、平野部の方が、平均値が小さく標準偏差が大きい。したがって、リアス部よ
り平野部の方が、帰宅途上で渋滞の影響を受けた場合が多かった、と推定される(黄色)。
地震発生から津波到達までの猶予時間をリアス部で35分、平野部で60分とすると、リアス部の自動車
の場合は、帰宅開始までに猶予時間の20%、帰宅終了までに54%野部の場合は、それぞれ18%41%
を費やしていたことになる。
なお、帰宅に要した移動時間について、アーカイブのトリップデータは、域内、域外を区分せず記述
している。この研究における移動距離は、GIS上で計測した域内のみの距離から計算しているので、仮
にアーカイブの移動時間データが域外からも含めて記載されているとすると、8の平野部の自動車の移
動距離と速度は、表4の右端欄に示した比率0.88程度に過小評価されている、と見なす必要がある。
表6 自宅が全壊した人で地震時に自宅に居た、あるいは津波来襲までに帰宅した人
自宅に居た/
自宅全壊
帰宅した/
自宅全壊
在宅と帰
/自宅全
自宅全壊
のデータ
帰宅のデー
タ数
在宅と帰
宅合計デ
ータ数
分析可能
帰宅データ
リアス部 52.0 % 22.9 % 75.0% 3,218 738 2,412 579
平野部 51.1% 27.4% 78.5% 2,074 568 1,628 369
自宅が全壊した生存者のデータ、2.4(5)で述べた値は文献1による山田町と石巻市のデータ
表7 帰宅の目的
家族親戚知
人の安否確
認(様子見)
家族・親戚・知
人を探したり迎
えに行ったり
被害の状
況確認
避難の用
意のため
津波から
の避難の
ため
避難呼
び掛け
救助
活動
データ
リアス部 41.7% 9.4% 14.0% 15.4% 10.8% 0.3% 0.1 579
平野部 30.6% 16.3% 22.0% 10.3% 7.6% 0.9% 0% 369
自宅が全壊した生存者のデータ,アーカイブのトリップデータで帰宅したと見なされる人の移動目的(単一回答)
から集計
- 93 -
4.立ち寄り行動の分析
4.1 避難、立ち寄り、用事立ち寄りのトリップデータ上での定義、ならびにデータ補正の適用
アーカイブのトリップデータは、属性として行動目的が付記されたトリップの連接で記述されてお
り、トリップ毎にその行動目的が読み取れる。そこで、始動点からの移動を順次記述するトリップの
内、目的が「津波からの避難のため」とされ、且つそのトリップの終点が自宅(2階も含む)以外の避
難場所となっているトリップを一連のトリップ群の避難トリップとし、それ以前のトリップを立ち寄
りトリップとしてカウントした。さらに、立ち寄りトリップの行動目的に「津波からの避難のため」
以外の目的が記述されている場合を、用事立ち寄りトリップとしてカウントした。
なお、本章においても、22節から24節の補正を経たデータを使って分析した結果を示している。
4.2 避難中に立ち寄りした人の割合
9に、自宅が津波で全壊した人で、地震の時に自宅に居たか津波来襲までに外出先から帰宅した人と、
その中の避難した人のデータ数を示す。避難した人(自宅の2階に上がった人や近所に行った人を除く)
はリアス部で82.0% 、平野部で73.5%であった。
同じく表9に、自宅から避難を始めた人が避難場所に直行せず立ち寄りをした割合を、立ち寄り全体と
用事立ち寄りに分けて示した。用事立ち寄りはリアス部11%、平野部13%で、内閣府の調査や金子・片
田の調査による立ち寄りより少ないが、立ち寄り全体ではほぼ同じである。この研究では上述のように
トリップの属性データによって用事の有無をカウントしており、避難中の立ち寄りトリップ(表9C
には、車から徒歩への変更や立ち止まって様子を見るなどの、用事以外の立ち寄りが含まれている。
4.3 用事立ち寄りの目的
10に、避難場所に着くまでに用事立ち寄りした人のトリップ毎の目的をまとめた。徒歩の場合は家
族・親族・知人の安否確認と迎えがリアス部36%、平野部42%であるが、自動車の場合はそれらが58%
64%になる(黄色)。避難困難者を救護・支援するための用事立ち寄りに、自動車が多用された。
表8 津波来襲までに外出先から帰宅した人の移動距離、帰宅時間、移動速度
移動距離
m
移動時間*
(分)
帰宅開始時間
(分)
帰宅終了時間
**(分)
移動速度
km/h データ数
***
平均値 S 平均S 平均値 S 平均値 平均値 S
徒歩 リアス部 340 364 6.517 5.72 5.69 4.7 12.20 3.439 2.13 144
平野部 611 850 10.05 11.39 8.02 8.78 18.07 3.55 2.34 50
自動車 リアス部 3,974 4,025 11.93 8.60 6.89 5.78-3 18.82 19.90 13.45 350
平野部 3,518 3,339 13.89 10.82 10.52 9.22 24.41 17.93 19.04 278
自宅が全壊した
生存者のデータ *帰宅中の立ち寄り時間を含む ** 帰宅開始時間+移動時間 S 本標準偏差
***データ数は徒歩と自動車にのみのデータであるので、合計してもその他も含む表6のデータ数とは一致しない。
リアス部(579 平野部(369
図2 外出先から帰宅する際の移動手段
徒歩 自転車 バイク 自動車 その他
外出先より自宅に帰宅した人で、自宅が全壊し
た生存者を対象に集計
( )内はデータ数、図中の数値は%。
- 94 -
4.4 避難開始から安全域に到達するまでの移動手段、移動距離、移動時間、移動速度
(1) 分析方法
避難の成否を議論する場合は、避難場所に行
き着く時間でなく、安全域に達するまでの時間、
すなわち、津波浸水域から脱出するか、適切な
高さの鉛直避難施設に行き着くまでの時間が重
要である。そこで、トリップデータと浸水域デ
ータをGIS上で重ねて、浸水域を脱するまでの
移動距離と時間を求めた。この時間は、3に示
す要領で、トリップに付されている始点と終点
の時間の差を、トリップラインの長さL2とその
ラインが浸水域と交差するまでの距離2の比で
配分することにより算出した。移動速度をそのトリップ内で一定と仮定していることになり、渋滞など
によって速度が局所的に変化する所がトリップ内にある場合は誤差が生じるが、データの情報量に限界
があり、局所的渋滞まで反映した計算は出来ない。また、浸水域内に最終移動先が留まっている場合は
生存者のデータであるので、鉛直避難したか、津波に捕捉されても生存した場合、と見なす事になる。
(2) 安全域に達するまでと避難場所に行き着くまでの移動距離、移動時間、移動速度の比較
被災者の避難距離や避難時間を分析する際に、避難場所に到着するまでの距離や時間が使われること
が多い。そこで、集計法による違いを見るため、安全域に達するまでと避難場所に行き着くまでの移動
距離、移動時間、移動速度を比較した。表11がその結果で、安全域に達するまでの距離と時間が、避難
場所に行き着くまでのそれらと比較して、短くなっていることが分かる。
短くなる度合いを徒歩と自動車を比較すると、直行、用事立ち寄り共に自動車の方がより短くなって
いる。自動車は徒歩より遠くの避難場所まで行くためと考えられる。一方、リアス部と平野部を比較す
ると、平野部の徒歩において、直行、用事立ち寄り共に短くなる度合いが小さい(橙色)。平野部の徒歩
避難では、浸水域内の施設に鉛直避難する場合が多くなり、その場合の比率が1.0となるためと考えられ
表9 在宅していた人と津波が来るまでに一時帰宅した人の避難と立ち寄りの割合
地震時に自宅に居た人と津
波来襲までに帰宅した人の 避難した
人の割合
B/A
避難
中に
ち寄りした
C
用事立ち寄
りした人
D**
立ち寄り
した人の
割合
CB
立ち寄
りした人の
割合
DB
合計A 避難した人B*
リアス部 2,412 1,979 82.0% 465 224 23.5% 11.3%
平野部 1,628 1,196 73.5% 265 149 22.2% 12.5%
自宅が全壊した生存者のみのデータ、*自宅・自宅2階以上または近所に避難を除く、
**避難中に立ち寄りした人で避難以外の立ち寄り目的を選択している人数をカウント
表10 用事立ち寄りを行った人の行動単位毎の目的
家族・親戚・
知人の安否確
認(様子見)
族・親戚・知
を探したり迎え
に行ったり
被害の
状況確
避難の
用意の
ため
避難の呼
びかけ手
助け
救助救
援活動
デー
タ数
徒歩 リアス部 21.2% 15.1% 7.5% 19.4% 1.4% 2.3% 81
平野部 15.9% 26.2% 1.7% 18.3% 4.1% 1.3% 42
自動
リアス部 26.2% 31.9% 4.4% 13.5% 8.2% 4.3% 96
平野部 23.2% 40.7% 2.0% 9.7% 6.0% 4.1% 100
自宅が全壊した生存者で、地震時に自宅に居たか津波が来るまでに自宅に戻った人で自宅から避難した人の
トリップデータの移動目的(単一回答)から集計
GIS ソフ
トにより
算出 2
避難
場所
自宅
浸水域
L1
L2
安全域に達するまでの
距離 = L1+2
時間 = (T2-T1)2/L2+T1
立ち寄り先
3 浸水域脱出までの寄りと時間の計算方法
T2
T1
- 95 -
る。用事立ち寄りの場合の移動速度の比は立ち寄りを含む見かけの速度の比である。リアス部の自動車
速度の減少度合いが大きいのは(黄色)安全域到達までとした場合に移動距離が短くなり、立ち寄り時
間の影響が相対的に大きくなるためである。
なお、この研究では、リアス部で地震発生から60分間、平野部で90分間のデータを対象とすることに
しているが、安全域に達するまでの時間が60分あるいは90分以内であっても、避難場所に到達するまで
にその時間を超えてしまうデータが存在する。そのため、ここでは安全域に到達するまでの時間が60
以内、あるいは90分以内のデータ同士で比較している。
(3) 避難した人の移動手段
4に避難した人の移動手段を「避難場所に直行した人」「用事立ち寄りした人」に区分して示した。
リアス部、平野部とも用事立ち寄りを行う場合は、徒歩の割合が減り、特に平野部では17.9%になる。
用事立ち寄りの場合に自動車の割合も減っているが、自動車から徒歩に変更した割合も含めると、避
難開始時点で自動車だった人の割合は、直行避難の場合とほぼ同じかやや多くなる。用事立ち寄りの場
合の「その他」には駐車場まで歩いてから自動車で避難した場合や、徒歩避難中に自動車に乗せてもら
った場合が含まれる。
(4) 安全域に達するまでの移動距離、移動時間、移動速度
12に直行避難した場合と用事立ち寄りをした場合の移動距離、移動時間、速度を示した。用事立ち
寄りの場合の移動時間には立ち寄り先での滞留時間を含み、移動速度はその時間も含めた見かけの速度
である。表13に直行避難に対する用事立ち寄り避難の倍率を示した。用事立ち寄りすることにより移動
距離がリアス部徒歩で2.46倍、平野部徒歩で3.28倍、リアス部自動車で3.10倍、平野部自動車で2.26倍と
なり、移動時間はそれぞれ2.76倍、3.17倍、3.57倍、2.58倍に長くなっている。
表11 安全域に達するまで/避難場所に着くまで
移動距離の比 移動時間の比 移動速度の比
直行避難
徒歩 リアス部 0.597 0.642 0.936
平野部 0.853 0.847 1.024
自動車 リアス部 0.505 0.592 0.943
平野部 0.624 0.686 0.999
用事立ち寄
徒歩 リアス部 0.695 0.779 0.884
平野部 0.853 0.950 0.964
自動車 リアス部 0.584 0.727 0.676
平野部 0.753 0.868 0.903
徒歩 自転車 バイク 自動車 自動車から徒歩 その他
リアス部直行 リアス部用事立ち寄り 平野部直行 平野部用事立ち寄り
数値は%、自宅に居たか自宅に戻った人で自宅が全壊した人から抽出、
移動手段が変更されても前後の移動目的が避難であれば直行とした。( )内はデータ数
4 避難場所に直行した人と用事立ち寄りした人の移動手段
(1,754) (224) (1,047) (149)
- 96 -
表13 用事立ち寄り避難と直行避難の比較
移動距離の比
移動時間の比
移動速度の比
用事立ち寄り
/直行避難
徒歩 アス部
2.46 2.76 0.652
平野部 3.28 3.17 0.865
自動車 リアス部
3.10 3.57 0.592
平野部 2.26 2.28 0.675
5.避難開始時間、安全域到達時間と帰宅、立ち寄り、移動手段の関係
この章では、地震時に自宅に居て避難した人と一旦帰宅してから避難した人に分け、帰宅、立ち寄り
の有無、移動手段の違いが、安全域到達時間に及ぼす影響を分析する。
14に地震時に自宅に居た人について、直行避難と用事立ち寄り避難の場合の避難開始までの時間、
避難開始からの移動時間(立ち寄り時間を含む)それらの合計としての到達時間を示した。15には津
波が来るまでに一旦帰宅した人について、14と同じ内容を示した。5には、避難開始時間の平均値と
安全域到達時間の平均値の間を棒グラフで、それぞれの標準偏差を箱ひげ図で示した。
本章においても、22節から24節の補正を経たデータを使って分析した結果を示している。
5.1 避難開始時間の比較
14と図5の地震時に自宅に居て避難した場合で見ると、用事立ち寄りをする場合は避難場所に直行す
る場合より3~10分早く避難を開始していることが分かる。この点は浦田・他25)も指摘しており、家族・
親族の迎えや安否確認を行うため早く行動を起こした結果、と思われる。徒歩と自動車を比較すると直
行避難の場合は自動車の方が早い。この点も浦田・他が指摘した傾向と一致している。
15の帰宅後避難の場合で見ると、帰宅に要した時間が加算されるため、避難開始時間が遅れている。
データ数の多い直行避難の場合で比較すると、リアス部の徒歩で7分、自動車で3分、平野部の徒歩で10
分、自動車で8分の遅れである。ただし、帰宅に要する平均時間は、表8に示したように、リアス部の
歩で12分、自動車で18分、平野部の徒歩で19分、自動車で24分であるので、自宅に着いてから避難を始
めるまでの時間が、自宅に居て避難を始めた人より短縮されている。帰宅による遅れを取り戻すため急
いだと考えられるが、加えて、週日の日中に起きた地震であっため、6に示す様に、外出先から帰宅し
た人の方が自宅に居た人より若齢であり、若齢故に行動能力が高かったことも影響したと思われる。こ
こに、8の帰宅時間の平均値には、帰宅が遅れて避難を諦めた人や帰宅後の避難を想定せずゆっくり帰
宅した人のデータが含まれているので、それが帰宅平均時間を押し上げている可能性もある。
表12 直行避難と用事立ち寄り避難の安全域に着くまでの移動距離、移動時間、移動速度
移動距離 (m) 移動時間 (
) * 移動速度(km/h) データ数
平均値 S 平均値 S 平均値 S
直行避難
徒歩 リアス部 225 213 8.24 8.52 2.33 1.86 859
平野部 521 431 10.76 9.45 3.41 2.01 354
自動車 リアス部 756 823 6.23 6.52 10.50 9.04 724
平野部 1,903 1,595 11.88 12.14 13.99 12.04 600
用事立ち
寄り
徒歩 リアス部 554 575 22.75 10.46 1.52 1.19 64
平野部 1,706 1,734 34.08 18.25 2.95 2.20 27
自動車 リアス部 2,343 2,843 22.27 10.19 6.22 4.94 63
平野部 4,297 2,809 33.00 18.69 9.45 6.77 71
自宅に居たか一旦帰宅した人で自宅が全壊した人のデータ *立ち寄り時間を含む S:標本標準偏差
- 97 -
5.2 徒歩避難と自動車避難の安全域に到達するまでの時間の比較
14、表15ならびに図5において、安全域に到達する時間は、自宅に居て避難する場合は徒歩避難よ
り自動車避難の方が早い(橙色)か、ほぼ同じとなっている。しかし、平野部で帰宅してから避難する
場合(表15の青色)は逆の傾向となる。
このように、徒歩避難と自動車避難の到達時間の早い遅いはリアス部か平野部か、直行避難したか立
ち寄りしたか、地震時に自宅に居たか帰宅したかによって、変化している。そこで、徒歩と自動車の各
ケースの平均到達時間にデータ数を掛けて加重平均することにより比較した。
自宅に居た場合と帰宅した場合の全ケースを併せた加重平均の結果では、自動車避難が29.47分、徒歩
避難が29.54分とほぼ同じであった。自宅に居た場合のみで比較すると、自動車避難が26.78分、徒歩避難
28.00分、自宅に居て直行避難の場合のみを比較すると、自動車避難が25.91、徒歩避難が27.46分と
なる。5の箱ひげ図で示した標準偏差を比較すると、自動車避難と徒歩避難の到達時間の標準偏差に大
きな差がないことが分かるので、安全域への到達時間で見た場合、自動車避難は徒歩避難と同等か、自
宅に居た場合は自動車避難がやや早いと言える。
表14 地震時に自宅に居た人の避難開始時間、移動時間、安全域到達時間
自宅に居た 避難開始時間 (
)移動時間 (
) 到達時間 (
) データ数
平均値 S 平均値 S 平均値 S
直行避難
徒歩 リアス部 16.54 13.37 8.51 8.8 25.05 14.24 632
平野部 22.56 17.58 11.24 10.56 33.79 18.79 241
自動車 リアス部 12.42 9.58 6.58 6.68 19 11.03 501
平野部 21.61 16.81 12.75 12.77 34.36 19.9 410
用事立ち
寄り
徒歩 リアス部 6.9 5.1 25.18 10.8 32.09 10.98 43
平野部 15.4 11.39 31.95 17.66 47.35 15.4 15
自動車 リアス部 9.15 7.51 23.71 10.75 32.85 12.78 43
平野部 11.77 7.09 31.19 20.27 42.96 18.81 33
自動車から徒歩 リアス部 8.83 8.65 27.42 12.44 36.25 11.28 33
平野部 10.69 6.05 39.55 16.03 50.25 18.19 11
地震時に自宅に居た人で自宅が全壊した人のデータ *立ち寄り時間を含む S:標本標準偏差
表15 津波が来るまでに帰宅してから避難した人の避難開始時間、移動時間、安全域到達時間
一旦帰宅した 避難開始時間 (
)移動時間 (
) 到達時間 (
) データ数
平均値 S 平均値 S 平均値 S
直行避難
徒歩 リアス部 23.41 12.71 7.5 7.64 30.91 13.42 228
平野部 25.26 17.42 9.75 6.42 35.01 17.5 113
自動車 リアス部 22.75 11.76 5.44 6.08 28.19 12.24 223
平野部 29.15 18.79 10 10.44 39.14 18.88 190
用事立ち
寄り
徒歩 リアス部 22.2 9.66 17.89 7.95 40.09 8.07 21
平野部 16.35 11.65 36.74 19.49 53.1 20.74 12
自動車 リアス部 13.29 6.99 19.14 8.25 32.43 9.98 20
平野部 22.43 12.04 34.57 17.32 57 15.2 38
自動車から徒歩 リアス部 16.5 7.95 22.32 7.58 38.82 7.8 18
平野部 23.44 12.19 23.46 10.28 46.9 16.98 9
津波が来るまでに帰宅した人で自宅が全壊した人のデータ *立ち寄り時間を含む S:標本標準偏差
- 98 -
5.3 自宅に居て直行避難した場合と帰宅後に直行避難した場合の移動時間の比較
直行避難における移動時間を、表14と表15あるいは図5の棒の長さで比較すると、徒歩、動車とも
に、自宅に居た場合より帰宅してから避難した場合の方が短くなっている(表14と表15の黄色)
徒歩の場合は、帰宅した人が比較的若齢で、歩行能力がより高いためと考えられる。自動車の場合は、
帰宅後避難の平均移動距離が自宅に居て避難の平均移動距離より短くなっているので(リアス部で
760m(N=501)から747m(N=223)に、平野部で2,004m(N=410)から1,683m(N=190)に)、帰宅後避難した人が
短い避難ルートを選択したと考えられる。
ここに、自動車から徒歩に変更した場合(渋滞に遭ったためと推測される)は別項目で集計され、途
中で亡くなった人のデータは分析に含まれていないことが、帰宅後に避難した人の移動時間の平均値を
下げた可能性も考えられるが、自動車から徒歩への変更は54節で示すように4~5%であり、亡くなった
人の割合は24(5)で考察したように多くても4%台であるので、これらが大きく影響したとは考えられ
ない。
5.4 自動車から徒歩に変更した行動
14と表15には、避難の途中で移動手段が自動車から徒歩に変えられた場合も示した。直行避難、用
事立ち寄り避難、リアス部、平野部の全てを合計した自動車避難数に対する自動車から徒歩への変更数
70
才以上
50
69
20
49
図中の数値は%、
(
)
内の数値はデータ数、自宅全壊の生存者のデータ
リアス部
平野部
地震時在宅(1,399) 一旦帰宅(579) 地震時在宅(796) 一旦帰宅(399)
6 地震時在宅者と一旦帰宅者の年齢構成
データ数は表
14
、表
15
参照
地震発生からの経過時間(分)
到達時間+1S
開始時間
1
S
避難開
始時間
安全域
到達時間
徒歩避難
自動車避難
行 立ち寄り 立ち寄り 直
自宅に居た 自宅に居た 帰宅した
平野部
5 避難開始時間と安全委記到達時間ならびにそれらの標本標準偏差
- 99 -
の割合を計算すると、表14と表15の自動車、ならびに自動車から徒歩の場合のデータ数から、
地震時に自宅に居た人達の場合は 帰宅後避難の人達の場合は
(33+11)(501+410+43+33+33+11) = 4.3% (18+9)
(223+190+20+38+18+9) = 5.4%
となる。データ数が少ないので定性的な分析に留まるが、変更の理由には渋滞に遭って自動車避難を途
中で断念した場合や高台の麓で徒歩に切り替えた場合が多いので、同じ自動車避難でも自宅にいて避難
を始めた人の方が、最後まで自動車で避難できるルートを選択できた、と推測できる。
5.5 地震発生からの経過時間と安全域到達数累積率の関係でみた分析
7から図10に、横軸に地震発生からの経過時間(分)をとり、縦軸に安全域に到達した人の累積数の
比率を示した。比率の基準はリアス部の場合60分経過時、平野部の場合90分経過時の累積数である。凡
例の「自宅・・」は地震時に自宅に居て避難した人、「帰宅・・」は地震後に一旦帰宅してから避難した
人を意味する。データ数は表14,表15と同じである。
7はリアス部の直行避難の場合で、自宅に居て直行避難した場合は、自動車避難の安全域到達の累積
が明瞭に早く、大きな津波が沿岸に達した35分頃にはおよそ90%が終了している。帰宅後に自動車で直
行避難した場合は、累積数率の立ち上がりが遅れるが35分頃には自宅に居て徒歩避難した場合に追いつ
いている。帰宅後に徒歩避難した場合も立ち上がりが遅れるが、自宅に居て直行避難した場合に追いつ
く傾向を示し、帰宅から避難を始めるまで素早い行動を取っていたと推測される。
横軸は地震発生からの経過時間()、縦軸 60 分時の累積到達数に対する割合、データ数は表 14 と表 15 に記載
7 リアス部、直行避難 8 リアス部、用事立ち寄り避難
累積到達数率
累積到達数率
分 分
累積到達数率
累積到達数率
横軸は地震発生からの経過時間()、縦軸 90 分時の累積到達数に対する割合、データ数は表 14 と表 15 に記載
9 平野部、直行避難 10 平野部、用事立ち寄り避難
- 100 -
8はリアス部の用事立ち寄り避難の場合である。自宅に居た場合においても、徒歩・自動車共に累積
数率の立ち上がりが図7の直行避難の場合より遅くなり、立ち寄りによる遅延の影響が明瞭に現れている。
帰宅後に避難する場合はその影響がさらに大きくなり、特に徒歩避難でその傾向が顕著に表れている。
なお、津波の影響がほぼ最大に達したと考えられる40分を経過しても、安全域到達の累積率が6080%
であること、すなわち津波の遡上域から脱していない人が多いことが疑問となる。浸水域に取り残され
る人数、津波の遡上時間、トリップデータにおける時間データなどを精査する必要がある。
9は平野部の直行避難の場合である。帰宅後に自動車避難する場合は累積数率の立ち上がりが直線的
であり、徒歩避難に追いつけないことから、渋滞の影響があったと見られる。また、自宅に居て直行避
難する場合は自動車避難の累積数率が先行するが、30分以降は徒歩が先行している
10は平野部の用事立ち寄りの場合である。データ数が少ないため円滑な累積曲線にならないが、帰
宅と立ち寄りが重なる場合は、徒歩避難・自動車避難ともに、大きな津波が沿岸に達した65分を経過し
ても累積到達数率が0.6に達していない。自動車避難で帰宅後立ち寄りの場合には、渋滞の影響も加わっ
ていると見られるが、8の場合と同様に、浸水域に取り残される人数、津波の遡上時間、トリップデー
タにおける時間データなどを精査する必要がある。
6. 結び
(1) 岩手県と宮城県の住宅が全壊した地域において、リアス部で住民の約23%平野部で約27%が地震発
生から津波来襲までに帰宅していた。帰宅には自動車が多用され、平野部では 75%に達している。帰宅
に要した時間は、自動車の場合はリアス部で平均18分、平野部で平均24分、徒歩帰宅の場合は12分と19
分であった。平野部の自動車帰宅の場合には速度の低さとそのばらつきから渋滞の影響が認められた。
(2) 津波で自宅が全壊した住民のリアス部で75%、平 79%が、地震時に自宅に居たか津波来襲まで
に帰宅し在宅していた。そしてその82%74%が津波来襲までに避難した。
(3) 自宅から避難した人のリアス部で11%平野部で13%が避難場所に向かう行動とは直接関係のない用
事立ち寄りを行っていた。そして、用事立ち寄りを行った人のリアス部で51%、平野部で61%が、自動
車を使用(途中で自動車から徒歩に変更した人を含む)していた。自動車を使用した人の用事立ち寄り
の目的は、リアス部で58%、平野部で64%が家族・親戚・知人の安否確認と迎えであった
(4) 用事立ち寄りした場合の安全域到達までの移動時間を避難場所に直行した場合と比較すると、リア
ス部の徒歩避難で2.8倍、平野部で同3.2倍、リアス部の自動車避難で3.6倍、平野部で同2.3倍に増加して
いる。
(5) 地震発生から安全域に到達するまでの平均時間は、地震時に自宅に居た人であっても用事立ち寄り
した場合は、リアス部の徒歩避難で32分、自動車避難で33分、平野部の徒歩避難で47分、自動車避難で
43分であった。一旦帰宅してからさらに用事立ち寄りした場合は、リアス部の徒歩避難で40分、自動車
避難で32分、平野部の徒歩避難で53分、自動車避難で57分であった。これらは平均値であるので、津波
到達時間が東日本大震災より短い場合、立ち寄り避難や帰宅後避難は大変危険な行為となる。
(6) 安全域到達の累積数の時間変化を見た場合、リアス部では帰宅で避難開始が遅れても、徒歩、自動
車とも素早い避難行動で遅れを取り返す動きが見られた。一方、平野部の自動車避難の場合は渋滞の影
響が見られ、帰宅と用事立ち寄りが重なる場合は、65分を経過しても遅れの取り返しが有効に働かず、
安全域到達が遅れる傾向が見られた。
(7) 徒歩避難と自動車避難が安全域まで到達するまでの時間を比較した場合、データ数の多い直行避難
では、リアス部で自動車避難の方が早く、平野部で徒歩避難の方が早い。データ数は少ないが立ち寄り
があるとその関係が逆転する。そのため、自動車避難と徒歩避難の早さを一律に比較する事は難しいが、
各ケースの安全域到達時間をデータ数で加重平均した値で見ると、自動車避難と徒歩避難の時間は、ほ
ぼ同じであった。
- 101 -
謝 辞
被災住民の避難行動について網羅的な調査を実施し、復興支援アーカイブとして公開した国土交通省
都市局と東京大学空間情報科学研究センターに深謝します。また、研究内容のとりまとめに当たり、有
益なご意見を頂いた山口大学大学院創成科学研究科建設環境系専攻 村上ひとみ 准教授、岐阜大学流域
圏科学研究センター 小山真紀 准教授ならびに中央大学理工学部都市環境学科 谷下雅義 教授に深謝い
たします。
参考文献
1) 後藤洋三、池田浩敬、市古太郎、小川雄二郎、北浦勝、佐藤誠一、鈴木光、田中努、仲村成貴、三上
卓、村上ひとみ、柳原純夫、山本一敏:東日本大震災津波避難合同調査団の形成と山田町・石巻市担
当チームによる調査結果 ―調査概要―、日本地震工学会論文集Vol. 15 (2015) No. 5 特集号「津波等
の突発大災害からの避難の課題と対策」2015年、pp.5_97-5_117
2) 内閣府防災情報のページ、内閣府防災対策推進検討委員会津波避難対策検討ワーキンググループ:
日本大震災時の地震・津波避難に関する調査について、
http://www.bousai.go.jp/jishin/tsunami/hinan/index.html20152月閲覧.
3) 黒潮町役場:第3次黒潮町南海トラフ地震・津波防災計画の基本的な考え方、
http://www.town.kuroshio.lg.jp/pb/cont/bousai-taisin/506 20165月閲覧.
4) 長尾一輝、大畑長、柿元祐史、花房比佐友、二上洋介、江藤和昭、桑原雅夫:大規模地震時における
自動車避難行動を考慮した避難施策の評価、土木学会論文集D3 (土木計画学) Vol.71 No.5 (土木
計画学研究・論文集第32)2015年、pp.I_53-I_68.
5) 中央防災会議:災害教訓の継承に関する専門調査会、第1期、第2期、第3期報告書
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/ 20165月閲覧.
6) 東京大学新聞研究所「災害と情報」研究班:1983526日日本海中部地震における災害情報の伝達
住民の対応−秋田県の場合−、東京大学大学院情報学環廣井研究室We b ページ(19853月)
http://www.hiroi.iii.u-tokyo.ac.jp/index-houkokusho-rist-nihonkai-chubu-jishin.pdf 20162月閲覧.
7) 首藤伸夫:津波と防災、土木学会論文集 第369/-519865月、pp.1-11
8) 斎藤徳美:1989 年三陸沖地震の津波に関する住民の意識・行動解析、自然災害科学9−21990年、
pp.49-63
9) 東京大学社会情報研究所「災害と情報」研究会:1993 年北海道南西沖地震における住民の対応と災
害情報の伝達(1994 1月)
http://www.hiroi.iii.u-tokyo.ac.jp/index-houkokusho-rist-hokkaido-nanseioki.pdf 2016 2月閲
覧.
10) 宮野道雄、呂恒倹、藤山篤、岡田成幸、村上ひとみ、天国邦博、望月利男:1993年北海道南西沖地震
による奥尻島の被害に関する検討、地域安全学会論文報告集419946 pp.13-21
11) 牛山素行、金田資子、今村文彦:防災情報による津波災害の人的被害軽減に関する実証的研究、自然
災害研究 J. JSNDS 23-32004年、pp.433-442
12) 片田敏孝、児玉真、桑沢敬行、越村俊一:住民の避難行動にみる津波防災の現状と課題―2003年宮城
県沖の地震・気仙沼市民意識調査から―、土木学会論文集Vol. 2005No. 789 II-712005年、
pp.789_93-789_104
13) 中重好、田渕六郎、木村玲欧、伍国春:津波からの避難行動の問題点と警報伝達システムの限界、
自然災害科学J.JSNDS25-2183-1952006年.
14) 桑沢敬行、金井昌信、細井教平、片田敏孝津波避難の意思決定構造を考慮した防災教育効果の検討、
土木計画学研究・論文集、Vo l . 2 3 2006年、pp.345-354
15) 加藤史訓、諏訪義雄、林春男2006年千島列島沖地震における津波からの避難の意思決定、土木学会
水工学論文集、第53巻、20092月、pp.865-870
16) 内閣府(防災担当)、消防庁、気象庁:平成23年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査
(住民)分析結果 http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/7/pdf/1.pdf 20162月閲覧.
- 102 -
17) 内閣府(防災担当):東日本大震災時の地震・津波避難に関する住民アンケート調査〔単集計結果〕
平成2412月、http://www.bousai.go.jp/jishin/tsunami/hinan/pdf/20121221_chousa1_3.pdf 20162月閲覧.
18) 国土交通省都市局街路交通施設課:津波避難を想定した避難路、避難施設の配置 及び避難誘導につ
いて(第3版)、平成254月、http://www.mlit.go.jp/common/000233464.pdf 20166月閲覧.
19) 金井昌信、片田敏孝:“津波から命を守るための教訓”の検証∼岩手県釜石市を対象とした東日本大
震災における津波避難実態調査から∼、災害情報 No. 112013年、pp.114-124
20) 諫川輝之、村尾修、大野隆造津波発生時における沿岸地域住民の行動−千葉県御宿町における東北
地方太平洋沖地震前後のアンケート調査から−、日本建築学会計画系論文集、Vol. 77 (2012) No. 681
2012年、pp.2525-2532
21) 松林由里子、中畑摩耶:東日本大震災における岩手県野田村での徒歩と自動車による避難行動につい
て、土木学会論文集B2(海岸工学) Vol. 71 (2015) No. 22015年、pp.I_1627-I_1632
22) 関谷直也:東日本大震災における「避難」の諸問題にみる日本の防災対策の陥穽、土木学会論文集
F6(安全問題)Vol.68 (2012) No.22012年、pp.I_1-I_11
23) 大野沙知子、高木朗義:新聞記事を用いた東日本大震災における津波避難行動に関する考察、木学
会論文集D3 (土木計画学) Vol.69 No.5 (土木計画学研究・論文集第30)2013 pp.I_75-I_89
24) 柳原純夫、村上ひとみ:東日本大震災における石巻市内での避難行動−移動パターン・移動距離から
の分析−、土木学会論文集A1構造・地震工学)Vo l . 6 9 No.4(地震工学論文集第32巻)2013年、
pp.I_1013I_1020
25) 浦田淳司、羽藤英二:津波避難時の避難開始時刻に与える事前行動の影響分析 東日本大震災におけ
る陸前高田市での避難行動を対象として、都市計画論文集Vol. 48 (2013) No. 32013年、pp.807-812
26) 英英、矢守克也、谷澤亮也、近藤誠司:南海トラフの巨大地震・津波を想定した防災意識と避難
行動に関する住民意識調査、災害情報 No.112013年、pp.68-80
27) 佐々木麻衣、氏原岳人、阿部宏史、鈴木理恵:南海トラフ巨大地震を想定した津波避難における自動
車利用意向とその動機及び抑制可能性、都市計画論文集Vol.49 (2014) No.32014年、pp.861-866
28) 照本清峰:自動車利用を含めた津波避難ルール(案)に関する地域モデルの形成 和歌山県みなべ町
を事例とした実践に基づく検討、都市計画論文集、Vol. 50 (2015) No. 3 都市計画論文集、2015年、
pp.423-430
29) 国土交通省都市局、東京大学空間情報科学研究センター:復興支援調査アーカイブ
http://fukkou.csis.u-tokyo.ac.jp/ 20149月閲覧.
30) 国土交通省:東日本大震災からの津波被災市街地復興手法検討調査のとりまとめについて
http://www.mlit.go.jp/toshi/toshi-hukkou-arkaibu.html 20152月閲覧.
31) Saki YOTSUI, Maki KOYAMA, Norimitsu ISHII, Aiko FURUKAWA and Junji KIYONO: MORTALITY
ANALYSIS BY MUNICIPALITY AND AGE GROUP IN THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE, Proc.
of Second European Conference on Earthquake Engineering and Seismology, Istanbul, Aug. 2014
32) 三上 :東日本大震災の津波犠牲者に関する調査分析∼山田町・石巻市∼、土木学会論文集A1(構
造・地震工学)Vo l . 7 0 No.42014年、pp.I_908-I_915
33) 後藤洋三, 池田浩敬, 市古太郎, 小川雄二郎, 北浦, 佐藤誠一, 鈴木, 田中努, 仲村成貴, 三上,
村上ひとみ, 柳原純夫), 山本一敏:東日本大震災津波避難合同調査団の形成と山田町・石巻市担当チ
ームによる調査結果 ―データ特性分析―、 日本地震工学会論文集Vol. 15 (2015) No. 5 特集号「津波
等の突発大災害からの避難の課題と対策」2015年、pp.5_118-5_143
(受理: 201633日)
(掲載決定: 201698日)
- 103 -
Impacts of Returning Home or Dropping In Just Before or During
Evacuation from the 2011 East Japan Great Earthquake Tsunami
Yozo Goto1)
1) Member, Senior Technical Adviser, Kaihatsu-Toranomon Consultant Co. Ltd., Dr. Eng.
ABSTRACT
About 44% of the people who evacuated from the giant tsunami of the East Japan Great Earthquake returned home
before starting evacuation or dropped in before they reached a safe place. The author used interview data of
survivors collected by the City Bureau, the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism; and the Center
for Space Information Science of the University of Tokyo, and analysed the purposes and consequences of
returning home or dropping in by classifying the data into the rias coast area and the plain coast area, and into foot
evacuation and automobile evacuation.
Notable among many outcomes were:
(1) When evacuees dropped in during evacuation, the time required to escape from tsunami inundation and reach
a safe zone, became 3.2 times for foot evacuation in the plain coast area, and became 3.6 times for automobile
evacuation in the rias coast area.
(2) Safety confirmation and rescue of family, relative, and acquaintance were the most common purposes of
returning home and dropping in. For dropping in by automobile, these accounted for 58% in the rias coast area and
64% in the plain coast area.
(3) When the required times to reach a safe zone by foot evacuation and automobile evacuation were compared,
the results were different according to the following combinations: evacuation in the rias coast or plain coast,
evacuation after returning home or coming from home, and evacuation with or without dropping in. But, the data
of number weighted averages of the required times for all combinations were almost the same for foot evacuation
and automobile evacuation.
Keywords: East Japan Great Earthquake, Tsunami evacuation, Returning home, Dropping in, Automobile
evacuation
- 104 -
... Then, the data on individuals in the FSC archive were weighted by the correction coefficient so that the age data distribution came close to that of the census when summing up the data for each LM (for details, see Goto's past paper 25) ). Table 1 shows the average and standard deviation of the correction coefficients, which were divided into three age ranges: 20-49, 50-69 and over 70. ...
... Distance to a safe place is the average moving distance of persons in an LM who evacuated their completely collapsed houses, without detour, to high land or inland non-inundation area or vertical evacuation facilities. The individual moving distance was calculated from the individual's evacuation trip data of the FSC archive, using the same method as Goto's preceding study 25) . ...
Article
Full-text available
The rate of fatalities caused by tsunamis vary from community to community depending on geographical and socio-psychological features peculiar to each. If the relationship between fatalities rate and geographical and socio-psychological features can be quantitatively formulated, this can be a concrete means for evaluating a community's vulnerability with regard to evacuation (hereafter, evacuation vulnerability) and developing effective measures that can reduce loss of human life. Therefore, the authors of this paper proposed to apply a Human Vulnerability Index (HVI), defined as fatality rate divided by rate of incidence of washed-out buildings, to evaluate the evacuation vulnerability of municipalities. Using reliable public databases, the authors analyzed the HVIs of twenty municipalities that were heavily damaged by the tsunami of the 2011 Great East Japan Earthquake. Then they applied a multiple-regression analysis using the following four factors as explanatory variables: 1) time allowance for evacuation; 2) preparedness; 3) road serviceability; and 4) warning effect. They thus extracted a reliable formula (R=0.904), which enabled them to quantify the effects of these factors on the HVI. Future tasks are to generalize the formula through application to other tsunami disasters and to establish a numerical evaluation of geographical and socio-psychological features to enable estimation of the tsunami evacuation capability of a municipality and the effect of tsunami countermeasures before a tsunami occurs.
Article
This research is having for its object to grasp the state of the support for future's wide area long refuge by the Great East Japan Earthquake. The way grasps an actual condition survey and the present support circumstances of the number of acceptance refuges of each urban and rural prefectures first. Next a will investigation in the 1st, the 3rd and the 5th to the long refuge in Tottori prefecture who supported it with a seismic hazard in the first whole country publicly to hit housing is performed. (1)The number of people of an acceptance refuge in prefectures is grasp after the earthquake disaster by an information system of a government. The refuge who doesn't register can't grasp is the current state. Because it's also pointed out that a refuge repeats movement with passage of the number of years, the refuge's trend grasp is difficult. (2)Aid package to a refuge by an acceptance prefecture is described. There are few prefectures the move policy, which is special case support for a temporary refuge by an investigation and is aggressive in fiscal year 2011. Support of a new acceptance "has been ended" about "the present support situation" according to an investigation in fiscal year 2013, but more than half is occupied. It's thought that aid package to a refuge out the prefecture thrust at a break as the reason. It "isn't applied" about "application of settlement promotion aid package" as one of aid package, but it's about 70 percent. A theme concerning return, move policies and the medium and long-term view requires argument based on the support which has passed from the thing. It doesn't come to a conclusion as the trend of the country about "demanding repayment right". On the other hand, most prefectures go about "support of demanding repayment right applying" as the acceptance prefectures, and the contents are various. (3)A result of the will investigation of the refuge who lives in Tottori prefecture is indicated. Various aid package is proposed as the recent years' trend of the refuge support. The aid package a wide area refuge needs on the one hand is as follows. An earthquake disaster for 1st year is the overall support which includes "improvement of life environment", "support in a residence", "job and starting working support" and "funds of the present cost of living". An earthquake disaster for 3rd year is continual life support in the refuge place, which includes "job and starting working support" and "support in a residence". The earthquake disasters for 5th year are individual correspondence as well as continual life support in the refuge place, which includes "support in a residence", "job and starting working support" and "improvement of life environment". (4)It's based on such current state, and it seems to work on support system making which can be shifted to the new shape. It nestled close to consciousness and needs of a refuge individual such as "move" and "return" with various support groups including administration.
Article
Full-text available
Mortality rates caused by tsunamis vary from community to community, depending on geographical and social features peculiar to each. If the relation between mortality rate on the one hand and geographical and social features on the other can be quantitatively formulated, it can be a means to concretely evaluate the community's vulnerability with regard to evacuation (hereafter, evacuation vulnerability) and to adopt measures that effectively reduce loss of human life. Therefore, the authors proposed to apply HVI (Human Vulnerability Index), defined as the rate of mortality divided by the rate of incidence of washed-out buildings, to evaluate the evacuation vulnerability of a municipality. Then, using reliable public databases, the authors evaluated the HVIs of the twenty municipalities that were heavily damaged by the tsunami of the 2011 Great East Japan Earthquake. And, they applied a multiple-regression analysis using the following four factors as explanatory variables and extracted a reliable formula (R=0.908), which enables us to analyze the evacuation vulnerability more rigorously. The formula also enables us to evaluate the HVI of a municipality before being suffered with a large tsunami. 1) Allowance: Tsunami arrival time after earthquake divided by length of evacuation route; The increase of allowance effectively lowered HVI. 2) Preparedness: Rate of persons who always prepared emergency bag; Disaster education such as letting people prepare emergency bags was effective in lowering HVI. 3) Road serviceability: Rate of car evacuees multiplied by car speed; The higher the road serviceability, the lower the HVI. 4) Warning intensity and cognition: Forecasted tsunami heights multiplied by people’s cognition rate; The forecast tsunami heights initially broadcast to the municipalities' areas was sensitive to HVI.
Article
Full-text available
It was concerned that the victims might repeatedly suffer unsolicitous inquiries posed by the many researchers who wanted to know the defect of the people's response to the tsunami of the Great East Japan Earthquake. Therefore, volunteer researchers and engineers who intended field surveys set the Tsunami Evacuation Joint Survey Group for the Great East Japan Earthquake up and implemented their surveys, coordinating fields with each other to mitigate the load on the victims and raising survey moral. This paper introduces the setting up of the joint survey group first, and reports the outline of the survey by the core sub-group which worked with Yamada town and Ishinomaki city and the social and natural features of these areas from the view point of tsunami evacuation potential. This report is followed by the continued report, which introduces the analysis on the characteristic feature of the data set obtained by the core-group. It is expected that this report and the continued report will provide the basic information to the users of the data from the surveyed fields and also provide the experience to the researchers who may do the same kind of the field survey in future.
Article
Full-text available
The preceding paper reported the survey structure of the Tsunami Evacuation Joint Survey Group for the Great East Japan Earthquake and the tsunamis vulnerable features of Yamada of Iwate prefecture and Ishinomaki of Miyagi prefecture. As the continued report, this paper introduces the analysis on the characters of the evacuees' behavior data collected by the team for Yamada and Ishinomaki of the Tsunami Evacuation Joint Survey Group for the Great East Japan Earthquake, comparing it with the same kind of data sets collected by the Ministry of Land, Infrastructure, Transportation and Tourism and the Cabinet Office. Through the analysis, it was concluded that the data collected by the team represented the general feature of the tsunami evacuation well and could be improved by the correction using age and sex distribution. It is expected that this report combined with the preceding report will provide the useful information to the users of the collected data and also provide the experience to the researchers who may do the same kind of the field survey in future.
Article
At the time of the Great East Japan Earthquake in 2011, a lot of the evacuees who used vehicles fell victim to the tsunami because of the heavily traffic congestion. Not only in this example, traffic congestion at a large-scale earthquake often has negative influences in various cases, for example occurrence of traffic accidents and obstruction of emergency vehicles. Therefore, it is urgently necessary to work out a plan which can make an evacuation by vehicles quick and reliable. Accordingly, this study aims to represent the traffic situation when an earthquake occurs by developing the evacuation simulator considering the analysis of vehicular behavior in the last Great East Japan Earthquake. Furthermore, a case study is conducted to assess the effects of the evacuation plans considering both structural and non-structural measures for easing traffic congestion.
Article
On 11 March 2011, 20% of residents in Noda villeage in Iwate, Japan evacuated against tsunami. As other regions in Japan, about 60% of evacuee used car to evacuate in Noda and delay in traffic is reported. Car is valid to transport person who need care to ecvacuate or to evacuate to distant area. However evacuation by cars may cause delay in traffic and disturb pedestrian evacuation. In this study, we analize evacuation behavior in Noda villeage in the Great East Japan Earthquake to reveal reason for delay of departure time and wheaher use of cars in evacuation caused traffic congention. Conclusion of this study is that central reason for evacuation by car and delay of departure time is to bring or rescue family members or acquaintances, and in Noda village, there wasn't fatal traffic jam araound center of town arised by evacuations by car.
Article
We conducted a questionnaire survey after the Tohoku Region Pacific Coast Earthquake in the coastal area of Onjuku, Chiba Prefecture. Residents were asked to describe their behaviors using a diagram and a map of the town. The results revealed the following: 1) actual behavior was not consistent with the result of a similar survey conducted before the earthquake, 2) many residents did not evacuate even though they received various disaster information, 3) behavior patterns differed based on residents' locations at the time of earthquake, and 4) several risky behaviors were conducted because of people's basic needs.