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園 学 雑.(JJapan.Soc.Hort.Sci.)58(4):885一 一893.1990.
樹冠内 ・外層の着果位置別にみた ウンシュウミカン果実の
貯 蔵 中 に お け る 品 質 の 変 化
泉 秀実 ・伊 東卓爾 ・吉田保治
近畿大学附属農場643和 歌山県有田郡湯浅町
Changes in Fruit Quality of Satsuma Mandarin during Storage,
after Harvest from Exterior and Interior Canopy of Trees
Hidemi IZUMI, Takuji ITO and Yasuji YOSHIDA
Experimental Farm, Kinki University, Yuasa, Wakayama 643
Summary
Changes in fruit quality and some other components during storage at 5°C and 15°C
were investigated in satsuma mandarin (Citrus unshiu Marc, cv. Hayashi) fruits
harvested from exterior and interior canopy of 21-year-old trees.
1. The rate of microbial decay including stem-end rot was much higher in the fruit
from interior canopy than from exterior canopy during storage at 15°C. On the other
hand, no decay was observed at 5°C except in a few fruit infected with blue and green
mold. The peel of fruits from exterior canopy tended to puff during first 60 days of
storage at 5°C and 15°C, in contrast to fruits from interior canopy.
2. The respiratory rate of fruits from exterior canopy was higher than that from
interior canopy during storage at 5°C and 15°C.
3. Peel color (a/b value) of the fruits from exterior canopy showed a marked in-
crease compared with the fruits from interior canopy during storage at 5°C and 15°C.
The difference in a/b value between the fruits from the two positions tended to in-
crease significantly at 5°C.
4. The reduction in titratable acid content of the juice was less in the fruits from
exterior canopy than from interior canopy during storage at 5°C and 15°C. The dif-
ference in the content between the fruits from the two positions of canopy tended to
increase at 5°C in the later period of storage.
5. The content of sugars in a fruit (g/juice of one fruit), which were glucose,
fructose and sucrose, showed no significant change in the fruits from either position of
canopy during storage at '5°C and 15°C. The fruits from exterior canopy maintained
notably higher content of sugar in the juice than those from interior canopy. The rate
of decreasing total sugar in the flavedo was higher in the fruit from interior canopy
than from exterior canopy during storage at 5°C, although there was no significant
difference in total sugar in the flayed flavedo of fruits from the two positions at 15°C.
6. Ascorbic acid (AsA) content in a fruit (mg/juice of one fruit) remained nearly
constant at 5°C, but decreased gradually during storage at 15°C. The exterior fruits
that had received more sunlight during development maintained a higher AsA content
in the juice throughout storage period for 110 days than did the shaded interior fruits.
AsA content in the flavedo of fruits showed a continuous decrease at 5°C and 15°C.
The reduction in AsA content in the flavedo of exterior fruits was greater at the end
of storage than in interior fruits.
緒 言
ウンシュウ ミカ ン果実 の発育 中の品質 と樹冠 内におけ
1988年12,月15日 受 理
青 果 物 の ビ タ ミソCに 関 す る研 究.第5報.本 報 告
の一部は園芸学会昭和'63年 度秋季大会で発表した.
る微気象要因 との関係については,古 くか ら調 査 されて
い る.特 に,樹 冠の外側 と内側では 日照条件が 異な り,
果実の受光量や果実温度に 差がみ られ るため(2,21,22,
24),一 般には果実重量,着 色,糖 度 及 び 酸 含 量 に差異
が生 じるもの とされて い る(17,21,22,24).筆 者 らも,
885
886 泉 秀 実 ・伊 東卓 爾 ・吉 田保治
発 育中の樹冠 内外の果実 の品質を比較 した ところ,上 記
の他に果皮及び果汁中に おける アス コル ビン酸(AsA)
含量 と各組成糖 含量 にも差がみ られ ること を 報告 し た
(10,11).し か し,こ のよ うに 着果位置 の 違いに よ り認
め られ る成熟期 の品質 の差が,貯 蔵 中に も維 持 され るか
どうかについては,経 験的に外な り果が長期貯蔵果 とし
て向いているとされているものの,そ の調査例は少なく
(8,16),果 実 の生 理的 変化 ま で経時 的に くわ し くは調 査
され ていない.
一方,貯 蔵 中 のウ ンシ ュウ ミカ ン果実 の品 質指 標 とし
て糖や有機酸 の変化をみた報告 は 多 い が(9,12,14,16,
19),栄 養学的 に も重要 なAsA含 量について調査 した
例 は比較的少ない よ うであ る(8,18,25).
本報では,日 照条件 の異な った樹冠 内 ・外層の果実を
収穫後5℃ と15℃ に貯 蔵 し,貯 蔵 中の果実品質を酸,
糖及 びAsA含 量 な どにつ い て測定 し比較 検討 した.い
くつか の点が 明らかに なった ので報告す る.
材 料 及 び 方 法
1.供 試 材 料
近畿大学附属湯浅農場で栽培されている21年 生(1987
年現在)の 普 通 ウ ンシュ ウ`林 温州'を 用 いた.発 育 中
の調査 に使用 した前報(11)と 同 じ10樹 か ら,樹 体の南
側上部外側と下部内側の果実を満開後210日 に当る12月
14日 に500個 収 穫 した.収 穫時の平均果実重 量は,外 側
が,105.09内 側が70.69で あ った.
2.貯 蔵 方 法
収穫果は,室 温(11±1℃,70±7%RH)で10日 間
乾燥予措を行い,果 実 重量 を約3%減 少 させ た後,40×
30×10(h)cmの プラスチ ック製の 箱14箱 に分け て2
段に並べ,で きるだけ高湿度条件を保てるように2箱 ご
とに有孔 ポ リエチ レン袋(80×90cm,0.04mm,φ6
mm×18個)に 入れ,5℃ と15℃ の送 風式 イ ンキ ュベ
ーター(東 洋 科学製 ,IS-2200型,有 効 内容積215Z)に
110日 間 貯蔵 した.貯 蔵 中 を通 じた袋 内の相 対湿 度 は,
5℃ で82±9%RH,15℃ で β0±9%RHで あった.
3.果 実 品 質 の 測 定
貯蔵中,原 則 と して15日 ご とに,腐 敗果 ・浮皮果 の発
生,果 実 重量,呼 吸量,果 皮 色,果 汁 中の酸 含量,果 汁
及び果皮 フラベ ド中の糖 とAsA含 量 を 測 定 した.
腐敗果 ・浮皮果の発生調 査は各区30個 体 に つ いて 行
い,浮 皮 の発生 程度 は触 感 に よ り3段 階 に分けて判定 し
た.な お,腐 敗 果は調査 のつ ど取 り除いた.
果実の呼吸量 は,密 閉 式 測定法 で,一 走時間 内に呼出
す るCO2を ガ スク ロマ トグ ラフ(島 津製 作所製,GC-
7A型)で 測定 し,1区5個 体 で3反 復 行 った.
果実重量デ果皮色,果 汁中の酸含量,果 汁及びフラベ
ド中の糖 とAsA含 量 の 測定 は,前 報(10,11)と 同様 の
方法で行い,1区10個 体に つ い て調 査 した.
結果及び考察
1.果 実の減量歩合及び腐敗果・浮皮果の発生
歩 合
分析に供 した果実 の減量歩合は第1表 に示 し た よ う
に,貯 蔵 中 を通 じ5℃ 区 よ り15℃ 区 の方 が 明らか に高
く,ま た貯 蔵 当初 は樹冠 内側 の果 実の 方が やや 高い 傾向
にあったのに対 し,そ の後5℃ 区 では 貯蔵30日 目か ら,
15℃ 区では75日 目か ら樹冠 外側 の果 実 の方が 大 き くな
った.果 実 の減 量 はそ の大部 分が 水分 の蒸 散で あ り,果
皮や果 肉の萎凋 として現れ る.本 実 験結 果で は,当 然の
ことなが ら15℃ 区の方が果皮 と 果肉の 萎凋は 目立ち,
また両温度区とも貯:蔵後半には樹冠外側の方が果皮の萎
凋がやや多い よ うであ った.
腐敗果 ・浮皮果 の発生歩合は第1図 に示 した.線 グ ラ
フで表 した腐敗果は貯蔵期間中5℃ 区ではほ とん ど認 め
られ なか ったが,15℃ 区 では 内側 の果 実の 方が 外側 に比
べて多 く発生 し,110日 後 の 発 生 歩 合 は そ れ ぞ れ70.0%
と36.7%で あ った.腐 敗の種類は,貯 蔵 期 間中 を 通 じ
て累計す る と軸腐れ病が最 も多 く,次 い で青 かび ・緑 か
び病,黒 腐 れ病,灰 色かび病の順であ った.樹 冠 内 側の
果実 では,特 に 軸腐 れ病 が多 く全腐 敗果 の 半分近 くを 占
めたため,腐 敗果の発生歩合が外側の果実 より高 くなっ
た よ うであ る(第2表).樹 冠内 側の果 実 の 方 が 外側 よ
り貯蔵中の腐敗果発生率が高いことは,普 通 ウンシュウ
で真子 ・大垣(16)が 報告 しているが,早 生 ウン シ ュ ウを
用いた伊庭 ら(8)の 報 告で は両 区に差 は認 め られず,軸
腐れ病の発生 も比 較的少 なか った としている.こ の病 害
は樹上での 黒点病菌 の侵入が 原 因 となるこ とか ら(7),
Table 1. Changes in weight loss of satsuma mandarin
fruits harvested from exterior and interior
canopy, during storage at 5°C (82±9% RH)
and 15°C (80±9% RH).
着果位置別にみたウンシュウミカソ果実の貯蔵中における品質の変化 88?
本実験結果は,主 に栽培中の樹冠内外の果実に対する薬
剤 散布 などの管理状態の差に起因 した もの と考 え られ
る.ま た,貯 蔵90日 頃か ら両温度区 の 樹冠外側 の 果実
において,コ ハ ン症が わず か に観察 され た.
棒 グラフで表 した浮皮果 も5℃ 区 よ り15℃ 区 の方が
多 ぐ発 生 したが,樹 冠 内外 の果 実 を比較 す ると,外 側 め
果実 の方が,両 温 度区 とも 貯 蔵前 半 の60日 頃 ま では 発
生歩 合が10%前 後 高 く,5℃ 区 にお いて は 貯蔵 期間 中
を通 じ浮皮 の程度 も強 い傾 向を示 した.真 子 ・大 垣(16)
は,普 通 ウ ソ シ ュウ で果 実 階 級 別の予 措 効 果 を 調 べ る
と,大 きい階級果では予措程度が不足する傾向が認めら
れ,貯 蔵 後 期 には浮 皮 果 へ と進む 予 措 もど りが 生 じ易い
ことを報告 している.本 実験 の予措終了時の減量歩合か
らみて も,樹 冠 外側 の果 実 では 内側 の果実 に比 べ子 措 の
効果 が十 分に得 られ なから たため,浮 皮 果 の発生 状態 に
影響を及 ぼ したものと思われ る.
2.果 実 の 呼 吸 量
果実 の呼吸量 の変化 は第2図 に示 し た.0日 目 の 値
は,予 措 終了 時に室 温 で測 定 した もの で11℃ 下 で の呼 吸
量を示 してい るが,そ の 後各 温度 区 に貯蔵 した と ころ,
5℃ の呼 吸 量 は15日 目まで減少 し,15。Cの 呼吸量は30
日目まで増加 した後,両 温 度区 と もほ ぼ一 定 とな った.
ただ,5。C区 の樹冠外側の果実 では特 に110日 後の値が
貯蔵 当初 よ り高 くなったが,こ れ はHasega∼ 始 とIba
(6)が コハ ン症 の発生 した 果実 の 呼吸 量は 多 くな るこ と
を認 めていることか ら,外 側 の果 実 で生 じた コ ハン症 の
影響 と思われ る.貯 蔵 期間 中 を通 じ,150Cの 呼吸量 は
5℃ の2∼3倍 程 度 であ った.樹 冠 内外の果実 を比較す
ると,両 温度区とも樹冠外側の果実の方が多い傾向を示
した.真 子 ・大 垣(16)は 外 な り果 と内 な り果を 常 温 貯 蔵
した場合,予 措終了時 と貯蔵終了時 ともに呼吸量は外な
り果 で少 ないことを示 して お り,こ の こ とが貯 蔵中 の果
実品質を良好 に維持 さぜた と述べ てい る.し か し,本 実
験 では後述す るよ うに,貯 蔵 中 の 呼 吸量 及 び 糖,AsA
な どめ成分 含量 はいずれ も外側 の果 実ゐ方が高 く推移 し
てお り,呼 吸 量 の少 ない こ とが 必ず し も爵蔵 性が 高 いこ
Fig. 1. Changes in the rate of
moderate, j severe) fruit
canopy, during storage at
incidence of
of satsuma
5°C and 15°C.
decay (0-0) and
mandarin harvested peel puffing (0 slight,
from exterior and interior
Table 2. The amount
interior canopy,
of decayed fruit
after storage for
of satsuma
110 days at
mandarin
5°C and
harvested
15°C (°o). from exterior and
888 泉 秀 実 ・伊 東 卓 爾 ・吉 田保 治
とにはつ なが らない結果 となった.こ の よ うな 例は,他
のカ ンキ ツ類 で も報告がみ られ(1,3),同 じ種類 の 果実
間 の呼吸量 の多少 と貯蔵性 との関係 につ いては 明確では
ないようである.ウ ンシュウミカン果実の呼吸量につい
ては,浮 皮 果 で増大 す るこ とが邨 田(19)に よ り報告 され
て お り,本 実 験 では,樹 冠外側 の果実 の予措程度 の不足
やその後の浮皮果の発生程度が呼吸量に影響 したものと
考 えられ る.
3.果 皮 色
果皮色(a/b値)の 変化 は第3図 に示 した.貯 蔵 中の
両温度 区を比べ ると,樹 冠 内外 の果 実 とも5℃ よ り15℃
の方が貯蔵期間が長 くなるにつれて値が高 くな り,110
日後 の両 区の差は外側 の果実が0.12,内 側 の果実が0.15
とな った.樹 冠 内外 の果 実 につい て比 較す る と,予 措期
間 中に樹冠外側 の果実 よ り内側 の果実の方が多 く増加す
るものの,0日 目のa/b値 は 外側 の方 が高 い値 を示 し,
そ の後,貯 蔵 中 では両 温度 区 とも外 側 の果実 の方 が増 加
量:は多 く,110日 後 には 内側 に比 べ5℃ 区 で0.17,15℃
区で0.14高 い値 とな った.果 皮 の着色 と温度 と の 関係
については,牧 田 ・高 橋(15)が,予 措温度が5∼20℃ の
範囲で は温度が高い程a/お 値が高 く榿色が濃 くな り,予
措 ・貯蔵中の着色が進行することを認め,ま た矢野 ・長
谷川(27)は,高 温予 措中 の着 色の 進行 を ク リプ トキサ ン
チ ンな ど澄紅色の カロチ ノイ ドが20℃ で最 も合成 さ れ
やすいため と してい る.本 実験 で の両温 度 区のa/b値 の
差 も,こ れ ら とほぼ 同様 の現 象が貯 蔵 中に生 じた ため と
思われ る.樹 冠 内外 の果 実を 比較 した 場合 も外側 の 果実
の方が着色が進行することから,両 果実問では貯蔵中の
カロチノイ ド代謝に差のあることが うかがわれた.
4.果 汁中の酸含量
第4図 に 果汁 中 の酸含 量の 変化 を,上 段に100ml中
の値で,下 段 に 果 肉 重 量 か ら算出 した1果 当 りの絶対量:
で示 した.酸 含 量 は 貯 蔵 中 徐 々に減 少 を 示 し,果 汁100
ml当 りで 表 す と,0日 目に 対 して110日 後 には5℃ 区
の外側で22%,内 側で36%,15℃ 区の 外 側 で46%,内
側で59%が そ れぞ れ減 少 した.温 度区で 比 べる と15℃
よ り5℃ の方 が,ま た樹冠 内外 の果実で比べ ると内側 よ
り外側の果実の方が酸の減少は少なく,貯 蔵後半5℃ 区
では樹冠内外の果実間の含量差が大きくなった.こ れら
を1果 当 りの含 量に 換算 す ると,樹 冠.内外 の果 実の 含量:
差が一層明白となった.貯 蔵温度が酸含量に及ぼす影響…
については,低 温 ほ ど酸の 減少 が抑制 され る こ と が 報
告 されてお り(8,16,18),本 実 験結 果 と一 致 し た.真 子
・大垣(16)は,外 な り果 と内な り果 を 常 温貯 蔵 した 場
合,貯 蔵 終 了時 に外 な り果 の 方が酸 含量 が 高か った のに
対 し,低 温貯 蔵 では 差異 がみ'られ なか った としている.
Fig. 2. Changes in respiratory rate of satsuma manda-
rin fruits harvested from exterior and ieterior
canopy, during storage at 5°C and 15°C.
0: 5°C (exterior canopy)
A : 15°C (exterior canopy)
• : 5°C (interior canopy)
A : 15°C (interior canopy)
Fig. 3. Changes in peel color of satsuma mandarin
fruits harvested from exterior and interior
canopy, during storage at 5°C and 15°C ( )
after curing at 10±1°C and 70±7% RH for 10
days (......).
A : At harvest time.
0: 5°C (exterior canopy)
A : 15°C (exterior canopy)
• : 5°C (interior canopy)
A : 15°C (interior canopy)
着果位置別にみたウソシュウミカソ果実の貯蔵中における品質の変化 889
本実験 では,両 温 度 区 とも外側 の果 実 の方 が酸 の保 持が
良 く,長 期 貯蔵 に 良好 であ る ことが示 唆 され た.
5.果 汁 中 及 び フ ラ ベ ド中 の 糖 含 量
果汁中の糖含量 の変化 を第5図 に示 した.100ml中 の
値 で表す と,貯 蔵0日 目の各 組成 糖含 量 は,樹 冠外側の
果 実では ショ糖5.269,ブ ドウ糖2.049,果 糖2.339,
樹冠 内側の果実 では シ ョ糖4.379,ブ ドウ糖1.069,
果糖2.649で,そ の後 貯蔵 中に 多少 の増 減は あ る も の
の,両 温 度 区 とも貯:蔵終了時 もほぼ同様の値で あ った.
これ らを1果 当 りの含量 に 換算 す ると,両 温度区 ともい
ずれ の組成糖含量 も貯蔵 中を通 じて ほぼ 一 定 な 値 を 示
し,ま た樹 冠 外側 の果 実の 方が 内側 よ り高い 含量 の ま ま
維持 される ことが認 め られた.こ の うち ブ ドウ糖 と果糖
では,そ の差が貯蔵期間 を通 じた平均 で0.59と0.69
程度 であ ったのに対 し,シ ョ糖 で は約1.49の 差 を 示 し
た.果 汁 中の糖 含量 が 低温 貯蔵 では ほ とん ど低下 しな い
ことは既 に報告 され てお り(8,14,18,19),本 実 験結 果 と
一致 した.常 温貯蔵の場合には,還 元糖含量の減 少す る
ことが報告 されてい るが(8,18),本 実験 の15℃ 区で は
ほ とん ど減少は示 さなか った.樹 冠 内外 の果 実 の糖 含量
の比較については,真 子 ・大 垣(16)が 低 温 ・常 温 貯蔵 区
とも,外 な り果の方が還元糖及び全糖含量 ともに高く経
過することを報告している.本 実験でも同様な結果が得
られ,収 穫 当 初か ら特 に シ ョ糖 含量 の多 い樹 冠外 側 の果
実は,貯 蔵中の果汁も濃厚で長期貯蔵に適しているもの
Fig. 4. Changes in titratable acid content in the juice
of satsuma mandarin f ruits harvested from ex-
terior and interior canopy, during storage at
5°C and 15°C(-) after curing at 10±1°C and
70±7% RH for 10 days (......).
A : At harvest time.
0: 5°C (exterior canopy)
A : 15°C (exterior canopy)
• : 5°C (interior canopy)
A : 15°C (interior canopy)
Fig. 5. Changes in sugar content in the juice of satsuma mandarin fruits harvested from exterior
and interior canopy, during storage at 5°C and 15°C ( ) after curing at 10±1°C and 70±7'
% RH for 10 days (••....).
A : At harvest time. 0 : Glucose (exterior canopy) A : Fructose (exterior canopy)
[] : Sucrose (exterior canopy) • : Glucose (interior canopy) A : Fructose (interior
canopy) /: Sucrose (interior canopy)
890 泉 秀 実 ・伊 東 卓 爾 ・吉 田 保治
と推 察 した.6
フラベ ド中の糖含量の変化は第6図 に示 した.新 鮮重
当 りで表す と,樹 冠 内外 の果実 と も5℃ 区では貯蔵終 了
時 には シ ョ糖が増 加 し,ブ ドウ糖 と果糖 が 減少す る のに
対 し,15℃ 区 では ブ ドウ糖,果 糖及び シ ョ糖 とも減少を
示 した.樹 冠 内外 の果 実を比 較 する と,5℃ 区 では 外側
の方が常に高い含量を示 したが,15℃ 区では貯蔵中両者
の差は5℃ 程 顕著 には み られな か った.こ れ らを乾物重
当 りで表す と,5℃ 貯蔵の シ ョ糖 では増加傾向がみ られ
るものの,両 温度区 とも他の組成糖の減少は新鮮重当 り
で表すより一層顕著とな り,す べての区で全糖含量は減
少す ることが認め られた.・貯 蔵0日 か ら110日 後 にか け
ての全糖含量の減少率は,5℃ 区の 外側 が16.8%,内
側が28.0%,15℃ 区の外 側 が63.1%,内 側 が64.7%と
な り,5℃ よ り15℃ 貯蔵 の方が 明らか に減少率は大 き
く,ま た 樹冠 内外 の果 実を 比較 す ると,15℃ 区では差は
み られ なか ったが,5℃ 区 では樹冠 内側 の方が大 き くな
った.果 皮 の糖 は貯 蔵 中呼吸 基質 と して消 耗 され ると考
え られてお り(9,19),伊 庭 ら(8,9)は 低 温貯 蔵果 よ りも
呼吸量の多い常温貯蔵果の方が糖含量の減少が著 しいこ
とを報告 して いる.本 実 験 結 果 で も両温 度 区 を 比 べ る
と,呼 吸 量 の多 い15℃ 貯 蔵果 の方 が 全 糖 の 減少 量は 多
く,伊 庭 らの 報告 と一致 した.ま た,果 皮 の糖 含量 は貯
蔵性に影響 する とされてお り(12),樹 冠 内 外の果 実を 比
較 する と,5℃ 区では外側 の果実 の方が減少量が少 ない
ことか ら,低 温 貯蔵 した場 合外 側 の果実 の方 が貯 蔵性 の
大 きいこ とが うかがわれた.た だ,本 実験では5℃ 貯蔵
の ショ糖 で増加傾 向がみ られ たため,糖 の減 少を 論 じる
には小宮 山 ら(13)の 指摘す るウ ンシュウ ミカンの シ ョ糖
合成関連酵素の関与についても今後検討する必要がある
ように思われ る.
6.果 汁 中 及 び フ ラ ベ ド中 のAsA含 量
ウンシュウミカ ンの果汁 中のAsA含 量 と貯蔵 温度 と
の関係について は,水 野 ・谷 口(18)が20℃,10℃ 貯 蔵
では減少す るが6℃,2℃ の低温では増 加傾向にある こ
とを,伊 庭 ら(8)は 常温貯蔵果 では貯蔵3か 月か ら5か
月後にかけて減 少するのに対 し,低 温 貯蔵(3℃)で は
ほ とん ど減少 しない ことを,ま た 高居 ・岩尾(25)は 室
温,'低 温(5∼6℃)貯 蔵 と も貯 蔵2か 月以降徐 々に減
少 し,そ の 割合 は室 温貯蔵 の方 が大 き い ことを報 告 して
い る.他 の カ ンキ ツ類に おい て も,オ レンジで は8.9∼
10℃ に貯蔵す る とそ の後室温 に移 して もAsA含 量 の減
少は少ないが(23)20℃ 貯蔵 では 多い こと(26),レ モ ン
では4℃,13℃ に比べ て24℃ の 高温 で減 少量 の多 い こ
と(4)が 報 告 されて お り,一 般に低温貯蔵 さ れ た 方 が
AsAの 保 持は 良い と されて い る.し か し,こ れ らの 報
告では減少の程度については必ずしも一致 して い な く
て,減 量に よる濃縮の影響を加えて考慮 しなければな ら
ない.本 実験の果汁中のAsA含 量 の 変 化 は 第7図 に示
した.果 汁100m1中 のAsA含 量は,収 穫 時 に は 外 側
Fig. 6. Changes in sugar content in the flavedo of satsuma mandarin fruits harvested from exterior
and interior canopy, during storage at 5°C and 15°C ( ) after curing at 10±1°C and 70±7
% RH for 10 days (......).
A : At harvest time. 0 : Glucose (exterior canopy) A : Fructose (exterior canopy)
0 : Sucrose (exterior canopy) • : Glucose (interior canopy) A : Fructose (interior
canopy) U : Sucrose (interior canopy)
着果位置別にみたウソシュウミカン果実の貯蔵中における品質の変化 891
の果実が33.4mg,内 側 の果 実が30.5mgで あ った の に
対 し,貯 蔵110日 後 では5℃ 区 の外 側 で39.8mg,内 側
で33.6mg,15℃ 区の外側で28.3mg,内 側で20.5mg
とな り,樹 冠 内外 の果 実 とも5℃ で は増 加 の 傾 向 を,
15℃ では減少 の傾向を示 した.こ れ ら の値 を1果 当 りの
絶対量 に換算す ると,収 穫 時の 外側 の 果実 が27.Omg,
内側が16.3mgに 対 して,貯 蔵110日 後 で は5℃ 区 の 外
側 が25.2mg,内 側が16.9mg,15℃ 区 の外側 が17.3
mg,内 側 が9.1mgと な り,5。Cで はほ ぼ一定 の値を示
し,15℃ で は顕著 な減 少を 示 した.こ の ように,果 汁 中
のAsA含 量 は減 量 によ る影響 を考 慮す る必 要 のな い1
果 当 りの絶対量 でみ ると,15℃ 貯 蔵 では減 少 す るのに 対
し5℃ 貯 蔵 では ほぼ一 定 であ るこ とが 明 らか とな った.
貯蔵期間中の樹冠内外の果実を比較すると,貯:蔵 当初か
ら終 了時にかけて外側 の果実 は内側 の果 実 よ り常に高い
含量 を維持 した.1果 当 りの含量 では,5℃ 区では両者
の差 が貯蔵 中ほぼ10mg程 度 で一一定 であ ったのに対 し,
15℃ 区では貯蔵90日 後 以降約6mgと 小 さ くな り,果 汁
中のAsA含 量 は,5℃ 区 にお いて樹 冠 外側 の果 実 の方
が保持 が良い傾向にあるこ とが認 め られた.な お,酸 化
型AsAは,貯 蔵 中1mg/100m1以 下 でほ とん ど存 在 し
なか った.
フラベ ド中のAsA含 量 の変化 は第8図 に示 した よう
に,樹 冠内外の果実 とも両温度 区で減少傾向を示 した.
この ことは,新 鮮重 当 りよ りも乾物 重 当 りで表 わす とよ
り顕著で,0日 か ら110日 後 まで の減 少率 は5℃ 区の外
Fig. 7. Changes in ascorbic acid content in the juice
of satsuma mandarin fruits harvested from ex-
terior and interior canopy, during storage at
5°C and 15°C ( ) after curing at 10±1°C and
70±7% RH for 10 days (......).
A : At harvest time.
0: 5°C (exterior canopy)
A : 15°C (exterior canopy)
• : 5°C (interior canopy)
A : 15°C (interior canopy)
Fig. 8. Changes in ascorbic acid and dehydroascorbic acid contents in the flavedo of
mandarin fruits harvested from exterior and interior canopy, during storage at 5°C
( ) after curing at 10±1°C and 70±7% RH for 10 days (......).
A : At harvest time. 0 : AsA (exterior canopy) A : DehydroAsA (exterior
• : AsA (interior canopy) A : DehydroAsA (interior canopy)
satsuma
and 15°C
canopy)
892 泉 秀 実 ・伊 東卓 爾 ・吉 田保 治
側 が56%,内 側が16%,15。C区 の 外側 が69%,内 側 が
51%と なった ・果 皮のAsA含 量 と貯蔵 温度 と の 関 係
については,ウ ン シュ ウ ミカンで は伊庭 ら(8)が 常温貯
蔵 と低温貯蔵(3℃)を 比 べた 場合,両 貯蔵 区 とも貯蔵
3か 月 及び5か 月後には著 しく減少 し,特 に 常温貯 蔵 区
で減少量が多いことを報告してお り,本 実験結果 とほぼ
一致 した・一方,レ モ ンに おい てはEaks(4)が,貯 蔵
12週 間後に4℃ と13。Cで は 増加す るのに 対 して24℃
では減少す ることを報告 してお り,本 実 験結 果 とは異 な
った.レ モ ン とウ ンシ ュウ ミカ ンでは,低 温耐性 の異な
ること(20)が 知 られているが,両 果 実 の 低 温貯 蔵 中の
AsA含 量 に差 が生 じ るこ とは,両果実 の低温耐性 の差に
影響す るもの と思われる.樹 冠 内 外の果 実 を比較 す ると,
新鮮重当 りの値 では外側 の果実 の方 が貯蔵 中高 い含量を
示 したが,乾 物 重当 りで表 す と貯蔵30日 後 以 降両区 の差
はあ ま りみ られず,110日 後 の減少率 は前述 のよ うに両
温度区で外側の果実の方がむしろ大きい結果 となった.
酸化型AsA含 量 は,貯 蔵 中樹冠 内外 の果実 とも5。C区
では収穫i当初 と大 差なか っ たが,15。C区 では 増加 の傾 向
がみ られ,外 側 の果 実 にお いて は貯蔵 後半2∼3倍 程 度
とな った・ これ らの果皮 のAsA含 量 の 減 少 や 酸 化型
AsA含 量 の増 加の現 象 は,ハ ッサ クの コハン症部 で み
られ ることが報告 され てお り(5),本 実験 でも 一部 み ら
れた コハ ン症 な どの褐変を伴 う果皮 の生理障害に関与 し
ている もの と考 えられ,今 後 検討 を加 えた い.
以上の結果を総合すると,栽 培中日照条件の良い樹冠
外側 の果実 は,貯 蔵 中に 着色 が 進行 し 果汁 中のAsA,
酸,糖 含 量 の保持 が良 いた め,栄 養価が高 く,ま た 品質
低下 が防止 され長期貯:蔵に 適 してい る もの と推察 した.
特に,低 温で貯蔵された場合それらの傾向が強いようで
あ ったが,浮 皮 果 の発生 や呼 吸量 が多 い傾 向 に あ る た
め,貯 蔵 に際 しては よ り十分 な予 措が 必要 であ る と思わ
れ る.
摘 要
樹冠の内 ・外層に位置するウンシュウミカソ果実を収
穫後5℃ と150Cに 貯 蔵 し,貯 蔵 中の 品質 変化 を比較 検
討 した.
1.果 実の腐敗は50Cで は ほ とん ど み られ な か った
が,15℃ では 樹冠 内側 の果実 の 方 が 外 側 よ り多 く 発生
し,軸 腐 れ病 が最 も多 か った.貯 蔵 前半 は両温度区 とも
外側 の果実の方 が浮皮 にな り易 い傾 向がみ られた.
2.果 実の呼吸量 は,両 温 度 区 とも貯蔵 期間 中外 側の
果実の方が内側 よ り多か った.
3.果 皮 色(a/b値)は,両 温度区 とも樹冠外側の果
実 の方が内側 より多 く増加 し,特 に5℃ では樹冠内外の
果実間 の差が大 き くな った.
4.果 汁 中の酸含量の減少は,両 温 度区 と も外側 の果
実 の方が少 な く,貯 蔵 後半5℃ では樹冠 内外の果 実間の
差が大 き くなった.
5.果 汁 中のブ ドウ糖,果 糖 及び シ ョ糖 含量 は,1果
当 りで表す と両温度区 とも貯蔵中ほぼ一 定の値 を示 し,
外側 の果実 の方が 内側 よ り顕著に高い値 を維持 した.フ
ラベ ド中の全糖含量は,15℃ では樹冠内外の果実問に差
はみ られ なか ったが,5℃ では樹冠内側 の果実 の方 が多
く減少 した.
6.果 汁中のAsA含 量 は,1果 当 りで表 す と5。Cで
はほぼ一定の値を示 し15℃ では 徐 々に 減少 した.貯:蔵
期間中を通 じ,日 射量 の 多い樹 冠外 側 の果実 の方 が 内側
よ り常に高い含量 を維持 し,貯 蔵 後半 特 に5℃ でそ の傾
向が強か った.フ ラベ ド中のAsA含 量 は,両 温 度区 と
も減少傾向を示 した.樹 冠 内外 の果 実を 比較 す ると,貯
蔵終了時には外側 の果実 の方 が減少率は大 きか った.
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